11. レイク・ルイーズ
Paukla
ご主人のKenは気さくな人だったが、このPaulaは日本人に何か偏見があるような感じだった。

 9月4日(水)。いつも起きる6時どころか5時にはもう目が覚めていたが、起きたところで新聞があるわけでなし、我慢して6時半くらいまでウツラウツラ。部屋の中でもうすら寒いのでセーターを着込む。7時頃、階上に人の気配。7時半。ダイニングに上がって行くとご主人Kenさんがいて、既に食事の支度が出来ている。コーンフレークみたいな物(原料は麦と言っていた)それぞれ箱入りで3種類。それをボウルに取り、ミルクをかけて食ぺる。

 ブルーベリーもあり、一緒に混ぜてもよし、別に食してもよし。トーストは自家製パンでこれはおいしかった。ハム類はなし。卵もなし。それにコーヒー。極めて質素。サービスはKenさんがする。 「コーヒーは?」、 「トーストは?」と甲斐甲斐しい。食べていると、奥さんが音もなく現れた。Paula。スレンダーで年は30歳くらいだろうか、ちょっとキャリアウーマン的雰囲気。初対面なので挨拶。Kenさんが「家内は毎朝筋力トレーニングをしている」と言う。そういえば下のリビングに器具があった。 「それでは奥さんのパンチは効くでしょうね」と言ってみたが、これは空振り。ニコリともしない。

 話は少し横に逸れるけれど、今までの外国人との交流を通じて感じること。相互に言葉が通じるか否かの第一関門は「発音」。次に慣用句を知っていると有利であるということ。今の場合、具体的にどう言ったか忘れてしまったが、どのみち私のことだから和製英語のレベルを出ない。 「力持ちの奥さんを持つと怖いね」という気持ちの慣用句が多分あるのだろうと思う。それを言えば笑いを誘えたんだろうが… 。

 Kenに反対に「昨日はどうだった?」と聞かれる。道を間違えて云々と説明。 「それは気の毒だった」と同情してくれた。Paulaに宿代180ドルを払う。カルガリーのスーザンさんは領収書を呉れたがPaula は呉れない。別にこちらは必要ないから構わないけれど、その辺からもこの家はB&Bに慣れていないと推察する。Paulaは「最近ゴルフを始めて面白くて仕方がない。昨日もコースに行っていたの」と言う。そのゴルフ代を稼ぐためにB&Bを始めたのではないかな。

 7時45分、表へ出て迎えを待つ。隣家もお向かいも道から引っ込んでいて木立に隠れ、建屋の全容は見えないがおおむね別荘風の造り。隣の庭先には実物大のバッファローの像がある。道路は片側 1車線の完全舖装。車は殆ど通らない。非常に静か。そこへ大型バスが1台徐行して来て止まった。7時50分ピタリ。運転手が降りて来て「ここは529番地か?」と聞く。この家だけ番地表示がないから、間違いないかと心配しているのだ。そこで昨日買っておいたチケットを示すとすぐ「乗ってくれ」と言う。乗ってびっくり。乗客は一人もいない。わざわざ我々二人を迎えるためにこの大型バス1台を差し向けたのだ。豪気なことをするもんだ。

 道は狭い。バスセンターは反対の方。Uターンは無理。どうするかと思っているとそのまま直進。ちょっと行くと右側の谷の向こうに昨日のバンフスプリングスホテルが見える。その対面の辺りに小公園があり、その外縁をグルリと回って方向転換。一路町へ向かう。途中郵便局の前で止めてもらい、昨夜の絵はがきを投函。日本宛のは本人より先に着くだろうか。

 バスセンターで本命の観光バスに乗換。早かったので前寄りの席に座る。隣のバスを見ていると、客の大きなスーツケースを横腹に積んでいる。これはツァーではなく路線バスか。もし日程に余裕があり、バスターミナルから宿までの足の手当が容易であれば、カナダではバス利用の方が安くて安全に旅行できそうだ。試してみる値打ちがありそう。

 後から客が続々と乗ってきて、7割方席が埋まったところで出発。運転手が自己紹介。マックファースンさん。スコットランド系かな。乗客は7割白人、3割日本人。日本人はギャルが多い。今の若者は恵まれている。私が彼女たちの年の頃、「死ぬまでに1回でも海外旅行ができたら幸せ」と考えていた。実現したのは54歳のとき。行き先は香港だった。

 町外れのホテルに寄ってまた客を乗せ乗車率80%くらいになる。鉄道線路を渡りハイウエイへ。鉄道線路といえば言わずと知れた汽車が走る所。今回の旅で都合3日間線路の脇を走ったが、遂に一度もその雄姿を見られなかった。山中の採石場に停車中の貨車は見たけれど。実は今回の旅行プランを立てるとき、カルガリーからバンクーバーまでこの大陸横断列車に乗ろうと考えた。ところが調べてみると列車の運行は週に3便程度。つまり2日に1列車しか走らないということ。料金は上下2段の寝台で合計6万円。更に所要時間19時間とスローなうえ、老朽化で遅延が多いとのこと。それでこのプランは放棄。代わりに飛行機で飛ぶことにした次第。

 今日の観光ポイントはジョンストン渓谷、モレインレイク、レイクルイーズ、スパイラルトンネル、ナチュラルブリッジ、レイクエメラルド、タタカウ滝。もう1カ所、「ここから太平洋、大西洋、北極海に水が流れて行きます」という所。分水嶺ですね。名前は忘れた。以下、簡単に触れる。

1)ジョンストン渓谷
 昨日我々がガソリンを入れようと入り込んだ道に入る。周りは針葉樹の原生林。10分くらい走ったらガソリンスタンドと休憩所みたいなのが寄り集まった施設があった。
桟道
 そこを過ぎてしばらく行ったら、バスを止めて運転手が「熊です」と言う。なるほど左側の林の中10メートル程の所を、母熊と2頭の子熊が下生えの草をかき分けて歩いているではないか。急いで写真を撮ったが、結果は光量不足で写っていなかった。渓谷は急流に侵食され切り立った崖にへばりつく道を、小さい滝まで1.5キロ程歩くという単純なもの。所々桟道になっているが、手すり付きだから危険は感じない。水量豊富な春に来たらまた違った印象が得られるだろう。

2)モレイン・レイク
モレインレイク
 登山好きの人なら、名前を聞いただけですぐ由来が分かるだろう。氷河の運んだ石で流れがせき止められてできた湖。芦の湖の10分の1くらい。雲が低く垂れ込め、時に小雨という悪条件なのにボートを漕いでいる人もいた。天気がよければ湖水の色が美しいかも。湖畔に大きな休憩所があったが、スピーカーで歌なんか流さないところがいい。

3)レイク・ルイーズ
 ここは有名。湖水の色が美しく、その奥に氷河があって景観に優れ、それを一望できるポイントに大きなホテルが建っている。運転手が「1998年まで予約で満杯」と言っていた。ここで昼食。若者達はTake outの店でパンを買い、立ち食いしている。案外堅実。
レイクルイーズ
 「レストランの眺望が素晴らしい」と経験者に聞いていたので、漂う香りを頼りに2階にそれを探し当てる。500人は優に入りそうな広さ。既にテーブルの6割方が埋まっていて、食器の触れる音や談笑する声でワンワンいっている。ビュッフェスタイルで一人20ドル。窓際に座れて家内はご機嫌である。ここでも雲が低く、氷河が端っこしか見えないが、それでも相当美しい。好天に恵まれたら絶景に違いない。
 隣のテーブルは中国人の家族連れ。別に観察していた訳ではなく、くっついているのでいやでも見えてしまうのだが、いや彼らの食べること食べること。賑やかにしゃべりながら我々の4倍は食べていた。これだけ食べるからエネルギーが満ち満ちてひたすら金儲けに邁進できるのだろう。食は力なりか。
  (この項続きます)
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