16. ヴィクトリアへ
すれ違ったフェリー
我々とは反対にバンクーバーに向かうフェリー。

 空はどんよりと曇り今にも降って来そう。だが海が静かで助かった。私は船に弱いのだ。行く手のバンクーバー島まで直線距離で3里位か。島影は視野一杯に横たわり、結構高い山がある。 全体にくすんだ色で美しいとは言い難い。フェりーは島に対して斜めに進む。
 ヴィクトリアは島の南端にある。緯度ではアメリカのワシントン州北部と同じ。つまり島の南端がアメリカ領海に食い込んだ形になっている。近いからシアトルとの間にもフェり一が運航されているようだ。(地図注)真ん中の島がバンクーバー島。バンクーバー市は右側の大陸にある。
バンクーバー島地図

 「船内でパスのチケットを買いなさい」と言われていたので一回りしてみたがビュッフェ、ゲームコ一ナー、売店などはあるものの、チケット売り場らしい所は見当らない。フェリーを降りてから探せばパス停があるだろうと高を括り、そのことは忘れることにして席に戻る。この船は新しいらしく、どこも綺麗だ。我々の席の横の壁には大きな棚があって、島内の宿泊施設のリーフレットが一杯に陳列されている(前頁の写真)。船内散歩の乗客達がそこで足を止め、手に取って眺めたりしている。この島へは予約無しで来ても宿に困ることはなさそうだ。勿論、当たり外れはあるだろうが。

狭い水路
 フェリ一は幅の広い海峡を横断し、小島に挟まれた狭い水路に入る。 丁度今は引き潮らしく、海水が渦を巻いて外海の方へ流れて行く。フェリーはそれに逆らって進む。やがて曲がりくねった水路を抜け、やや広い海面に出る。右が本島。左が小島の列。どちらにも家がチラホラと見える。別荘だろうか。日本の松に似た樹が多い。島に松は似合う。雨が激しくなった。窓ガラスに雨水が滝のように流れ、時に外が見えなくなる。

 家内が船内散歩から帰ってきた。「あなたも行ってみたら」とせき立てられ、再び散歩に出かける。売店のキャッシャーに何気なく「ここでバスのチケットは買えるの?」と聞いてみた。聞いてよかった。「間もなく(バスの)運転手達が一番下の階に下リるから、ヴィクトリア行のバスを見付けてその運転手から買いなさい」と教えてくれた.。なるほど、そういうことか。すぐ席に戻り家内に事情を説明し、エレペ一ターで最下層階に下りると、そこにはパスが4列縦隊でズラリ。手近な所にいた運転手に「ヴィクトリア行のバスは?」と聞くと「一番前」と言う。そこへ走って行く。まだ運転手は上から下りて来ていない。ジリジリしながら待つ。やっと来た。来意を告げると「これは他へ行くパス。ヴィクトリアは4番目のパスだ」。全くもう・・。4番目に走って行って大男の運転手からやっとチケットを買えた。もうその頃には、パスに乗る客が続々と下りて来る。すぐロビーに上がり、家内を連れて下へ。

 バスに乗ってホッとした途端、スーツケースを預けてあるのを思い出した。さぁどうするか。自分ではどうにもならないから運転手に相談。どう言ったか覚えていないんだが、運転手はすぐに理解した。「ついて来い」と船尾の方に向かう。列の後ろの方にパンが2台。その中にスーツケースが一杯詰まっている。ところがドアはロックされており、運転手がいない。エンジン音が変わり、船は接岸を開始した。うちの運転手が探しに行く。見付からずにまた戻って来る。それを2回くらい繰り返した。こちら、人に迷惑を掛けそうで気が気でない。そういう気分って以心伝心で分かるらしく、うちの運転手は「大丈夫。すぐ来るから」と言ってくれる。しかし一向に来ない。遂にガラガラッと錨を下ろしたのか船首を開いたのか、そんな音がする。十数台のパスが一斉にエンジンを始動。 「いやぁ参ったな。パスが上陸を始めたら後ろがつかえて迷惑かけるな」と家内に言っているところへ、やっとパンの運転手が現れた。我々を見て怪訝な顔をしている。

 うちの運転手が鍵を開けさせる。不幸中の幸い。我々のスーツケースは開けたすぐそこの一番上に乗っていた。排気ガスが立ちこめる中を急いでパスに戻り、辛うじて後ろを待たせずに発.車。やれやれ。こんな思いをするくらいなら最初から直行パスに乗れぱよかった。ドサクサでこのフェリーで買ったパスの料金は幾らだったか忘れてしまったが、直行パス比で一人10ドルも安くはならなかったのではないか。しかし.このPCI(Pacilfic Coach Line)の運転手は態度に落ち着きがあり、そして親切だった。なお蛇足だが、こちらではパスをコーチという。

 上陸したのはSwartz Bay(上図参照)。パスはフェリーを離れると、そのまま公道へ出て走り出す。注意して見ていたが、そこにはパスターミナルとかバス待ちの乗客とか、レンタカー、タクシ一など日本のこういう所ならありそうなものが全然なかった。つまり、ここでフェリーからバスやタクシーに乗り替える客はいないのだ。もし船内の売店でキャッシャーに訊ねなかったら我々は一体どういうことになったのか。スーツケースは受け取れただろうが、バスには乗れずここで立ち往生ということになっただろう。

 パスは坦々たる道を淡々と走る。このバスの運転手は観光案内はしない。道の左右は丘であったり畑であったり。丘には松林。所々に町がありマーケットがある。全くの田舎というのではないな。そうかといって日本の都市の郊外とも違う。もっと暢びやかな感じがある。雨はいつの間にか小降りに。次第に車が増え、人家が増え、渋滞が始まる。運転手が「今日は金曜日だから混む」と言っていた。小1時間でヴィクトリアのパスターミナルに到着。バンクーバーの親切な女性が「フェリー降りたあと歩くなんて飛んでもない」と目をむいたが、これでは目をむくのも当り前だ。しかし本当の話、フェリーのあとこんなに走るとは知らなかった。チョット今回は研究が足りなかった。パンクーパーからヴィクトリアまで、結局4時間近くかかった。
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