21. Vancouver・downtown
ブルーホライゾン30階からの夜景。こちらダウンタウン。向こうはノースバンクーバー。間に入り江がある。
 (続き)
 もうかなり歩いたが、まだロブソン通りには出ない。家内が地図のとんでもない所を指し、「今いる所はここではない?」と言う。「いや、この辺りだ。間もなくだと思うよ」と歩くうち、左手に我々のホテル、ブルーホライゾンが見えてきた。家内は「どうして(地理が)分かるの?」と言う。街はほぼ碁盤目になっていて、そのうえ交差点には必ずStreetとAvenueの表示板がある。地図さえ持っていれば、迷いたくても迷いようがない。迷う方がおかしいのだ。

 そのままロプソン通りを横断すると、すぐ左側にサーモン専門店がある。その斜め前にお土産グッズの専門店。どちらも日本人の経営であるらしく、店員はオール日本人だ。それぞれで若干の買い物をする。家内の交友関係までとや角言う気はないが、いつも「お土産は極力少なくする」よう申し入れている。「お土産を買うために旅行に出るのではない」と言いたくなることが多いからだ。時に「それが楽しみなのよッ!」と反撃されるが、今回はまぁまあ上出来ではなかったか。尤も家内に言わせると、「私は他の人より遥かに少ない」そうである。そういえば今年3月、ザルツプルグで現地居住の日本人ガイドがショッピングに夢中のツァー客を見ながら、「こちらの人は旅行先では絶対買い物をしないのにねぇ」と呟いていたのを想い出した。ドイツ人は地元で買うのだそうである。

 お土産グッズ店では、若い女性の売り子が自分の仕事そっちのけで、手持ち無沙汰にしている当方の話し相手をしてくれた。ワーキングホリデーで来ているとか。 「英語はうまくなる?」と尋ねると、「サッパリです」という返事。関西訛がある。そういえば今まであちこちで遭遇したギャルは関西弁が多かった。関西人はバイタリティがあるからなぁ。「折角外国へ来て話せるようにならなければ意味ないんじゃないの?」。「そうなんだけれど働かなくては生活できないしィー、働けば時間がなくてェー、学校には行けません」。あまり偉そうなこと言える柄ではないけれど、こういう行き先不明の荷物のような子がここには一杯います。いや、ひょっとして世界中かな。でもカナダは特に多いようです。

 さっきグランビルから予約した栄寿司は、この店の真向かいの地下にある。うまい具合に6時になったので入ることにする。亀井ロイヤルより狭い。マネージャーは日本語がたどたどしい韓国人。カウンターに座ったので、否応なしに職人と言葉を交わすことになった。寿司は江戸前だが、驚いたことに3人居た職人はみんな関西弁だ。どうも感じが出ない。察するにこの店は、関西在住の在日韓国人の経営ではなかろうか。味は良いが、握りも巻物も上品ぶってチマチマと小ぶりである。そのうえ家内は勧められて、デザートにコーヒ一ゼリーを食べた。珍妙な取り合わせではないか。混んできたので小1時間で席を立つ。勘定は亀井より高く約7千円。

 店の中にも外にもかなりの席待ち客がいる。「どうしようか。止めようか」と言っている母娘がいたから、「ここより亀井の方が大きいから、そちらへ行けば多分早く入れますよ」と教えて上げたら、「それどこですか?」と乗ってきた。それで途中まで一緒に行って上げる。道々「(栄寿司は)ネタがいいって書いてあったので探して来たの」と言う。「亀井もネタはいいし、それにお値段が良心的ですよ」と言うと喜んでいた。 「地球の歩き方」に載るだけで客が集まるんだ。宣伝の時代ですね。尤も自分もそれを見て来たんだけれど。

 ホテルに帰る。土産に買ったサーモンは冷蔵庫に入れておくように言われたので、部屋のミニパーを開けようとするが、フロントでよこした鍵がどうしても合わない。そもそも部屋に鍵がかかっているのに、更にミニパーになぜ鍵をかけるのか理解に苦しむが、それはそれとして、合わないものはどうしようもない。やむなくフロントまで下りて行って「鍵が違うようだ」と言うと、引き出しをガサガサかき回し別の鍵をよこした。部屋に戻って合わせてみたら今度は簡単に開いた。ガイドブックに、このホテルは「サービスは万全とはいえないが・・」とあった。ガイドブックは悪いことは書かない。しかし、たまには本当のことも書いてあると納得。

 家内が蕁麻疹になった。かなりひどい。サーモンの小片を試食したからだろうか。「寝ているからいいよ」という家内を置いて街へ出る。ビールが飲みたい。さっき買い物したサーモン専門店のお兄さんに「どこかパブを教えて」と頼んだら、すぐ隣の店がいいと言う。 「そうか」と名前も見ずにそこに入る。
 ジョー・フォルテスJoe Fortes。テープルだと空き待ち。パーだと言うと、すぐ「OK」。バーのカウンターは馬蹄形。白人の若いウエイトレスと、ベトナム系と覚しきウエイターが切り盛りしている。ウエイトレスにピールを頼む。「グラスかボトルか?」。こちらではジョッキをグラスというらしい。 「これ」と、積んであるジョッキを指す。次いで「どれにするか」。当方の目の前に並んでいる名札付きの棍棒を指す。当方何がいいか分からないから「お勧めに従う」と言う。
 出されたものを一口。まずまずの味。金はその都度払う。3ドルとか5ドル程度。ただしGSTという税金があるから、必ず端数が付く。この税は消費税だろう。何にでも付いている。隣の男はカードで払っていた。初め見た時は変な慇じがしたが、考えてみるとカードの方が合理的かもしれない。カードならお互い小銭の勘定をする手間が省ける。チップは席を並つときに払えばいいのだから。

 周りを見回すと男女のカップル、男の二人組。若者はいない。1階の半分がバー。半分がテーブル席。頭上は吹き抜けで、奥の方は2階になっている。かなり広い。我輩が座っている席の横に暖炉のようなものがあってそれが邪魔して見えないのだが、その向こうからジャズの生演奏が聞こえてくる。テープル席は食事の客で満員。それで気がついた。今日は日曜日なんだ。こちらのジョツキが空になったのを見てウエイトレスが「飲むか?」と聞くから、今度は別の銘柄を頼む。これはまずかった。甘くて喉越しが良くない。それでも昭和一桁の悪い癖で捨てることができない。間をおいて二口くらい飲んだがやっぱりまずいものはまずい。食事の直後で満腹でもあるし、何も無理することはないと遂にギブアップ。なにがしかのチップを置いて店を出る。

 ロブソン通りをホテルに向かって歩く。ここはバンクーバー随一の繁華街ということだが、夕方8時頃というのにいわゆるブティック系の商店はもう閉まっている。だから全体に暗い。あちらこちらにギター弾きやバイオリン弾き、それに物乞いがいる。自分の前に「職を求む」と書いたボール紙を立てて座っているのがいる。 「求めているのは職だから、乞食ではないのだぞ」と言いたいのかもしれないが、しかしどう見ても物乞い然としている。立て札を見て 「仕事があるよ」と言ってくれる人間が果たしているのだろうか。

 とある土産物屋に入る。ここも売り子は若い日本人の女の子。やはり関西訛がある。ハキハキしていて面白い。「この辺り香港人が買い占めて値段釣り上げたらしいね」と言うと、「この店香港人の経営ですけど、彼ら本当に金持っていますよ」。 「カナダはいい。明日帰国するんだけれど帰りたくないな」。「やっぱりそうですか。なら移住したらどうですか」。「そうしたいけれど祖国は捨てられないしな」。自分でも思いがけない言葉が飛び出した。「ここの経営者は"香港なんてどうなってもいい。あんな厭な所はない"って言っていますよ」。香港人って元々本土から逃げて来た連中だからな。しかし我輩が祖国として大切に思っていても、日本の方では「お前なんかいらん」ってこともあり得るなぁ。つまり片想い。一つ重大な発見をしたような気がした。

 ホテルに戻り家内に様子を聞くと、持参した塗り薬「ムヒ」で大分良くなったと。暫く夜景を眺めていたが、明日が早いのでシャワーを浴びて就寝。
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