22. 帰 国
バンクーバー空港
バンクーバー空港。チェックインカウンターで荷物を預からない。免税店がイミグレーションの手前にある。変わった造りです。

 9月9日(月)。6時起床。今日も好天。外を見ていると、左の海峡の方角から眼下のバラッド入江に白い優美な客船が入港して来る。その船が右方の大きなビルに隠れるか隠れないかのうちに、また同じくらいの大きさの船がゆっくり入って来る。続けてまた似たような船が・・・。こうして僅か30分足らずの間に、何と6隻もの船が入港して来た。今日は何か特別の日なんだろうか。ここから北のハウ海峡へ「しゃち」やホエールウォツチングの観光船が出ると聞いていたが、これがそうなんだろうか。もっと日にちに余裕があったら我々も行きたかった。

 家内の蕁麻疹はよくなった。すぐ荷造りにかかる。昨日の土産物を詰めるのに一苦労。スーツケ−スの蓋が閉まらないのだ。上に乗っかってやっと閉まる。時計は7時。少し早いが出ることにする。精算して外に出たら、客待ちしていたバン型タクシーから運転手が飛び出して来た。それを無視してスーツケースをゴロゴロと押しながら、次の角を曲がったホテル・パシフィックパリセーズまで行く。ここから7時25分発空港行きエアポーターが出る。それに乗る。ホテルの前には誰もいない。

 暫くすると、イエローキャプが1台やって来て車寄せに止まった。退屈凌ぎに路上に駐車している車を1台1台覗く。ホンダ、日産、アウディがある。トヨタがない。シェアは現地生産を始めた順に比例しているようだ。そろそろ時間だが・・・と時計を見ていると、耳元で誰かが何か言う。いつの間にか、車寄せに止まっていたイエローキャプの運転手が横に来ていて、 「バス料金と同額で行くから乗らないか」。南アジア人らしい大男。後で揉めるのは厭だから、「本当にバス代だけでいいんだな」と念を押す。「OK」と言うので、早速これに乗り込んだ。タクシーに乗るのはこれが3回目だが、この車が一番いい。ギシギシ、ガタガタいわないし、運転もしっかりしている。こちらではタクシーもそうだが、一般の車も運転マナーが非常に良い。横断歩道では人が渡り切るまで待っている。クラクションを鳴らさない。

 空港が近づくと、運転手が「どこへ行く?」と聞く。質問には二つのポイントが考えられる。大きい空港だと入っているエアラインが多いから、そのエアラインのカウンターに近い所で降ろさないと、客は相当歩かなくてはならない。だから「どのエアラインか?」という意味。もう一つは単なる挨拶みたいなもので、日本人なら「今日はどちらへ?」というやつ。どちらも満足させるように、 「デルタ航空でポートランドへ」と答える。そうしたら「アメリカ人か?」ときた。我が輩がアメリカ人に見えるかね。

 話は横道に外れるけど、今までで一番多かった見当違いは「中国人」だ。初めての香港旅行の帰りの機中(日航だった)。機内販売のスチュワーデスに日本語で話したら、横に座っていた客がびっくりして 「香港の人だと思っていました」と吐かした。次は台北。歩いていたら道を聞かれた(のだと思う)。また台北駅のホームで、何か切羽詰まった表情の女性に何か聞かれた。多分「○○行きはこのホームでいいの?」だろうと察せられたが、どうしようもなくて「私は日本人です」と日本語で答えたら、目を丸くしたまま他の人の方へ行ってしまった。列車の中では女の人に何か頼まれた。その人は他の客にも端から頼んでいたから、何かの売り込みだったのかも知れない。私が持っていたガイドブックを黙って見せたら、外国人とわかったらしく意外そうな顔をし、席に戻って隣の客にこちらを指して何か言っていた。おそらく「どう見ても中国人なのに、外国人らしいよ」と言っていたのだろう。台中でタクシーに乗ったら… 。切りがないからもう止めよう。タイだのフィリピンだのでは、中国人に間違えられたら、そのまま中国人になりすましている方が一般的には有利だと言える。中国人はお金に渋いと知れ渡っているから、向こうが吹っ掛けてこないのだ。にもかかわらず「Chinese?」と聞かれると、反射的に「No,Japanese」と言ってしまう。それで随分損をしている(筈だ)。

 「いや日本人だ。ポートランドから東京へ飛ぷ」。それっきりで話が切れたから、今度はこちらから「どこから来たの?」。「インド」。「南? それとも北?」。「北」。それで会話はおしまい。間もなく空港に到着。料金は厳密には19ドルでいいのだが、非常に安定した運転だったから、20ドルにチップを2ドル上げた。意外だったらしく、「Oh,thank you sir」と相好を崩して喜んでいた。インド人にしては人が良さそうな感じだった。

 空港ビルはまだ新しくて清潔。デルタ航空のカウンターには客も職員もいない。来るのが早過ぎたのだ。家内はビルの探険に出かけた。当方はスーツケースに腰かけて周囲の観察。隣のカウンターはホライゾン航空。聞いたことないから、おそらく国内航空だろう。カナダ人はホライゾンという名が好きらしい。咋日のホテルだけでなく、旅行中あちこちで見かけた。ここの空港は変わっている。普通はチェックインカウンターの後ろにベルトコンベアーが走っていて、そこに預かり荷物を落とすようになっている。ここにはそれがない。カウンターの前の行列ができる場所には、銀行でよく見かけるロープの仕切りが設けられている。これは中国人の特技、割り込み封じに有効だ。そのために作ったのではないか。

 次第に後ろに列ができる。みんな日本の若者で3グループくらい。待つことおよそ30〜40分。男の職員が一人やって来て受付開始。「バルクヘッドシートを」と希望するが、「残念ながらご希望に応じられない」。「では家内に窓側の席を」。「ポートランドまでは無理だが、ポートランド〜成田間はご用意できる」と、一々丁重な受け答え。そのうえ、ポートランドまでの機内に限って有効というカクテル券をくれた。察するところ、アメリカ各社のバンクーバー便は競合が激しいのではないか。

 カートを押して乗客入ロへ向かう。職員が「入ロはこちら」と客引きのように声を掛けている。なぜかというと、それは免税店の中に入って行く造りになっているから。ショッピングに興味のない人は(そこは搭乗口ではないと勘違いして)通り過ぎてしまう。普通、免税店はイミグレ一ションを通り過ぎた所にある。どうしてこういう造りにしたのだろうか。免税店を突っ切るとイミグレーション。ここまで来て家内が「もう中に店はないの?」と言う。まだ買い物をするつもりらしい。「ないようだね」。「それなら私戻ってちょっと見てくる」。「じゃあ先に行っているよ」。

 当方カウンターに進むと、見ていた係官が「彼女はどうした?」。「ワイフはショッピングフリークなんだ」。 「ああそうか。○▽☆●※・・」と何か分からないが、ジョークらしいことを言って笑っている。大方「うちのもそうなんだ」とか言っているんだろう。ここはすんなりパス。次は30米ほど歩いて税関。そしてやっと荷物の預かり所になる。ここでスーツケースを預けると次がTAXのカウンター。米ドルで8ドル。この先へ進むと最初のイミグレーションの所が見えなくなる。何が起こるか分からないからここで待機することにする。

 乗客が荷物を載せてきたカートはここで回収され、インド人の作業員が1列にして後ろから電動車で押して行く。背が低いからインド人でもタミール系かな。家内はなかなか来ない。30分も突っ立っているからそのインド人、 「なんだこいつ」という目でチラチラとこちらを見る。イライラし始めた頃、イミグレーションの前に家内が立ったのが見えた。係官に何か言われている。やがて紙をヒラヒラさせ、こちらを手招き。「やっぱり!」。仕方がないから、今通った税関の職員に「ワイフが呼んでいるから通してくれ」と頼んだが、にべもなく拒絶される。それで手真似で「行かせてくれない」とサイン。再び向こうですったもんだしているのが見えるが、どう仕様もない。そのうちにイミグレの係官が折れたのだろう。紙を持って家内がやって来た。

 要するに「この紙を書け」と言われたが自分では書けない、ということ。見るとそれは税関申告書。申告書は1家族に1枚という決まり。私と一緒に通過していれば何事もなかったのだ。全部書き込んで引き返させる。それでイミグレ、税関をパスして1件落着。家内はTAXをC$で支払う。10ドル。しかしこのTAXは失敗だった。日本でチケットを買った時、入出国税分として小1万円別に払ってある。それをすっかり忘れていた。チケットを売った代理店(WAS)もよくない。出発前に念の為「税金支払い済の表示はどこ?」と照会したところ、「専門的になるので簡単には説明できない」と言われた。こちらも「そんなものか」と引っ込んだのが悪かった。うやむやにせずにちゃんと聞いておけば、TAXの字を見た途端に思い出しただろう。自由旅行はこういうところまで気を張っていないと失敗する。今回はColumbia lcefieldに行き損なったのが大ミス。このTAXの二重払いが小ミスだった。

 定刻にポートランド着。出口で機長がスチュワーデスと共に乗客を見送る。こんなこと初めて。激しい競争に勝ち抜こうと懸命な会社の姿勢がうかがわれる。
(中略)

 定刻に成田着。総武快速線は出たばかりで、次までは1時間ある。止むを得ずYCATまでリムジンバスに乗る。1時間ちょっとでYCATに到着。荷物がなければ歩いて15分だが、 スーツケースがあるからここでタクシーに乗換。 「横浜駅まで」と言った途端、運転手がムッとしたのが分かる。ダッと凄い勢いで走り出し、ちょっと走ったところで小道に入り、「はい、ここです」と止まる。そこから先は工事中で、なるほど車は入れない。しかし大通りを走って駅正面に着けるところを省いたのが見え見え。争うのも厭なので黙って降りる。料金には荷物の料金も加算されているのに運転手は降りてもこない。客がスーツケースを下ろしたうえ更に車のトランクを閉めるのを乗ったまま待っている。実に態度が悪い。プロ意識が希薄。日本人の心は確実に貧しくなっている。そこから駅舎まで約100メートル、工事中の凸凹道をスーツケースを押して歩く。横浜駅の階段、逗子駅の階段。重くて苦労する。遂にキャスターが壊れてしまった。旅行の最後に不愉快な思いをさせられた。

 <あとがき>
 カナダの印象を簡単にまとめてみたい。まず根本的なところで、この国は懐が深いと思う。色んな人種の移民を受け入れている。そして、人の動きがゆったりしている。これは土地の広さと関係があるのではないか。日本は外国人の受け入れに対して神経質。近頃は特に厳しい。そういうことも手伝って、日本人の国際感覚が盛んに云々されているが、結局は士地が狭いところに原因があると思う。これはどうしようもないことだ。

 次に、カナダ人は働くときはしっかり働く。プロ意識がある。サービス業しか見ていないが、生産性は日本より上ではないか。それに愛想がいい。バスの運転手に限らず、必ず別れるときHave a good dayとかEnjoy Victoriaとか挨拶する。この一言があるかないかでこちらの気分も大きく変わる。これは社会習慣かもしれないが、しかし畢竟、個人の心にゆとりがなくてはできないことだ。

  最後にいわゆる合理化、無駄の排除が日本より進んでいる。成田でリムジンに乗るとき、荷物を積むのに若い職員が二人も付いた。運転手は何もしない。カナダでは運転手が一人でする。料金はビクトリア〜バンクーバ一3時間半、途中フェリーも使って23ドル=1900円。片や成田〜横浜1時間少々で3300円である。体に例えると日本はコレステロールが溜まって、今や難治の高血圧症になっている。高コストだ。一時的に痛い思いをしても、贄肉を落としスリムにならないと国がもたない。国債残高だけで240兆もあるのに、まだそのうえに補正予算を云々するなんて、これは正気の沙汰ではない。私は日本人であることを心中ひそかに誇りとしてきたが、そのよってくるところの基盤がいつまでもつか、近ごろ寒心に耐えないのである。皆さんはどう思われますか?

 ご参考までに今回の旅行費用のうち、主要項目についてメモしておきます。
                          <総額>      <一人当たり>
1)航空運賃(国際・税込み)         171,200円        85,600円
  同 カナダ国内                19,430           9,715
2)宿泊費 B&B3泊               20,875           10,437
  同 ホテル4泊                59,422          29,711
3)レンタカー3日間               22,275          11,137
4)食 費 概 算                  28,000          14,000
   合  計                  321,202         160,601

(注)買物、その他雑費を入れると、一人当たり20万円くらい掛かったと思います。
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