6.バンフへ
路傍のモーテル
道中所々にこういうモーテルがある。オフシーズンなら予約無しで出掛けても宿に困る事はなさそう。

 9月3日(火)朝6時起床。7時にスーザンさんの給仕で食事。黒っぽいパンにバター、チーズ、自家製のブルーベリージャム。コーヒーと牛乳。オムレツ。デザートに苺。ハム類はなし。字にすると豪華だけれど、素朴というか質素というか。

 食事が終わってから少しお話しする。ここの情報を得たマッピングブック「カナダ」には、Calgary B&B Associationと書いてあった。だから「スーザンさんはその会長ですか?」と聞いてみる。これは昨日ここへ到着したときからの疑問。ここはAssociationの事務所だろうと想像していたのです。ところが着いてみたら案に相違して全く普通の住宅だった。「Associationは36軒のB&Bで構成。私はそのオペレーター」とのこと。申込はここへ来る。それを配分するということか。「日本人の客はありますか?」と聞いてみると、 「ありますよ」とサイン帳みたいなノートを持ってきた。春頃に若い女性が一人。英文でいろいろ賛辞が書いてある。ウーン、我輩より遥かにできる。それはそれとして、それぞれの日付を見ていくと客は多くなさそう。この辺は見る所がないから観光客は素通りするんだろう。

 外へ出てスーザンさんと記念写真を撮る。車も人も通らないから、三脚を道路の真ん中に堂々と置ける。そう言えばここへ着いてからこちら、一度も近所の人や通行人を見ていない。どの家も前庭の芝を短く刈ってあり、ゴミなど一つも見当らず、清潔にして閑静な住宅地だ。

 別れの挨拶をして出発。走り出した途端、家内が「止めて! 眼鏡を忘れた」と.言う。屋内に入った家内を待つこと3分。笑いながら戻って来て言うことには、あっちこっち懸命に探しているうち 「アッ!」と気がついた。自分の頭に掛けている。スーザンさんが抱きついてきて背中を叩き、何か言いながら大笑いしたと。こんな調子で果たして無事に帰国できるだろうか? 旅はまだ始まったばかりなのに。

 昨日のCenter Stをダウンタウンに向かって南下し、途中で右折。国道1号線。前後の車が次第に減り、10分走ったかどうかくらいで市街地を抜け、左右はカルガリー大学のキャンパス。緩やかな坂を下るとすぐ野原。さっきの記念写真の時からパラパラと落ちていた雨が次第に本降りになってきた。大事をとって3車線の最右側を80キロくらいの速度で走るのだが、いかんせん通行量が少ないから次第にスピードが上がり、すぐに100キロになってしまう。いつの間にか中央分離帯がそれ自体で3車線くらいの幅に変わっている。これだけ幅があれぱブレーキでも壊れない限り、反対車線に飛び出すことはないだろう。

 周りは畠地らしいが何も植わっていない。やがて道の左に山裾が添ってきて、左右どちらにも牛の群れが見える。どうも放牧地らしい。放牧地ならイメージとしては緑の絨毯でなけれぱならないところ。それが何だか全体に褐色がかっていて、一向に美しくない。ここは北緯51度。サハリン中部と同緯度だから,もう草も枯れ始めているのか。この辺りから道は緩やかな上りに変わる。何か書いてあるボール紙を付けたバックパックを背直い、雨に打たれて黙々と歩いている若省がいた。多分ヒッチハイカー。なにしろ時速100キロで走っているから、気がついた時はもうかなり通り過ぎている。可哀想だが心の中で「ごめんな」と呟いて走り続ける。

ロッキー山脈を見ながら
 次第に右からも山が迫り、その裾に川が流れてる。ボウ川かな? 川の両岸には針葉樹が生えていて、それで川幅が分かる。20メートルくらいのものだろうか。何やらロッキー山脈らしい景観になってきたが、雲がかかって山の上の方は見えない。中央分離帯はいつの間にか1車線幅になっている。雨は小降りになったり激しくなったり。
 突然右側に工場が現れた。周囲には社宅みたいな、規格が似ている建物がかなり立ち並んでいる。何の工場か知ららねども、場違いな感じで気分が白ける。それはそれとして途中、オリンピック会場らしき所は遂に見掛けなかった。

 まだ走り出して1時間はたっていない筈だが、家内が「そろそろ休みましょう」とうるさい。暫く行くと路傍にガソリンスタンドと小さなレストランが見えた。そこで小休止することにする。車を止めてよく見ると、裏や横手にモーテルがある。レストランは山小屋風の造り。中は暖かく、ドアをあけて入った途端、眼鏡が曇って前が見えなくなる。若い女性がすぐ注文を取りに来た。紅茶をオーダー。8人くらいの女性の先客あり。みんな子育てが終わったくらいの年齢か。或はもっと行っているかもしれない。質素だがサッパリした身なり。みんなハーフコートやジャンパーを着ている。これはおそらくカナダ人。グループで旅行中。昨夜は隣のモーテルに泊まり、今朝食を取ったところと察する。

 感心するのは、みんな姿勢がいいこと。それから大声を出さない。何か議論している風だったが、それでも静かなもの。「女三人寄れば・・」という諺は当地では当てはまらないようだ。彼女たち割り勘で勘定を済ませ、静かに出ていく。窓から見ていると1台の車に2、3人ずつ分乗して走り去った。他に2、3組のカップルの客。それを先程の女性が一入で捌く。動きはキビキビしており、そのうえ愛想がよい。見ていて誠に気持ちがいい。昨夜のレストランのウエイトレスも高校生くらいの若い子だったが、やっぱりキビキビしていた。この国ではウエイトレスといえどもプロ意識をもって働いているようにみえる。

 勘定はいくらか忘れてしまったが、 「電車の初乗り区間くらいだな」と家内と話したのを覚えているから、たぷん一人2ドルくらいだったろう。地名はdead manなんとか。外のポールに書いてあった。日本なら「縁起でもない」という類の名前。地図には載っていない。雨は小降りに。今日はコロンビア氷河まで行くつもりだからゆっくりはしていられない。トイレを済ませて出発する。
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