11. 招待されて空振り
Hyatt Hotel
浦東に聳え立つ金茂大厦。この上層階がハイアットホテル。天気が悪いと上部は雲がかかって見えなくなります。
 タイトルでお分かりのように、これは失敗談です。原因は一つの言葉の誤解から。
 ある日、外事処のT副処長が来て、外国人教師をTea partyに招待するから貴方も来ないかと言う。場所は浦東のハイアットホテル。日時はその週の金曜日午後7時。集合場所はロビー。私の英語は中学生レベル。最低限の用事なら何とかこなせるという程度。英語を母語とする連中と対等に話せるわけがない。正直な話、ちょっと気が重い。でも、そんなこと言ってたら外国では暮らせない。二つ返事でお受けしました。

 後で偶々2階の小ロビーの前を通ったら、掲示板(黒板)に「To English teachers」のタイトルで同じことが書いてあった。外国人教師への通知はそこに書き出す(貼り出す)約束になっているらしい。T副処長はおそらくここに通知を書いた後で、「ああ日本人が一人いたっけ」と気がついた。そして「一人だけ除け者にしちゃ可哀想だ」と考えたのではないか。私はEnglish teacherじゃありませんからね。それでわざわざ私の所まで来てくれたのでしょう。この人は女性だからということもあるのでしょうが、当たりがとても柔らかく、優しい人でした。U主任がひどかっただけに、余計そう感じたのかも知れません。

 当日、私は市内にちょっと用事があり、「一人で行きますから」とT副処長に告げて出掛けました。用というのはカレンダーを買うこと。日にちを調べるのに一々手帳を開くのが面倒。それで机の上に置けるカレンダーを近くの文房具やで探した。しかし、この時はもう3月だったか4月だったか。どこにも無い。じゃ残る可能性は福州路かな?  ここは戦前、かの有名な四馬路。歓楽街だった。新中国になって文化街になった。昔のイメージを消したかったのでしょうね。書籍、文房具などの店が軒を連ねています。ここを探せばあるだろう。しかし、通りを隈なく探し回っても見付けられなかった。仕方がない。そちらは諦めて、集合時刻の7時に間に合うようハイアットに向かいます。

 この当時、確か地下鉄2号線はまだ開通していなかった。大世界前からバスで行きました。金融中心が一番近い停留所と判断してそこで降りましたが、金茂大厦まで随分戻りましたね。金茂大厦はアジア一の高層ビルでしょ。だからすぐ近くに見える。でも距離がありました。更に、すぐ近くまで行ったら今度は横断歩道が無い。大厦は往復8車線くらいの車道の向こう。地下道も見当たらない。どうも東方明珠の辺りまで行かないと向こう側に渡れないらしい。しょうがないから中国式に、高速で走ってくる車の列を突っ切って渡った。やっと大厦の足元に辿り着いたものの、今度はホテルの入り口が分らない。グルリと向こう側へ回り込んでやっと見付けた。ありゃ? ロビーなんて無いぞ。

 金ピカのホテルのプレートはある。だからそこに間違いはないのだけれど、そこはエレベータールーム。あまり広くないし、座る所が無い。ま、しかし、しょうがない。7時まで待ちました。7時になってもT副処長も外国人教師達も現れない。ここのエレベーターはハイアットホテル専用のエレベーターです。そうか、ロビーは上なんだ。そこで上に上がった。80階でしたかねぇ。兎に角おそろしく高いところです。ロビーを探したがそこにもいない。今度はTea roomへ行った。綺麗な小姐が一杯いて、ご予約は?  「上師大」と言ったら、そういう予約は没有と言われた。エーッ?  狐につままれたみたいな気分。首を捻ると、この上に個室があるからそちらかも知れない。行ってみたら・・・と言ってくれた。今度は別のホテル内専用エレベーターで上がります。またまた綺麗な小姐がいて、同じ問答をし、やはり「没有」。

 諦めて、1階まで降りた。帰ろうとしましたが、「待てよ。オレが降りて来る間に連中上がって行ったかも知れないな」と閃いた。そこのエレベーターの数たるやチョットやソットじゃない。10基はありますからね。そこでまた上へ上がって行った。またロビー、Tea roomを見て回った。やっぱりいない。さっきの小姐が気の毒そうな顔をしている。同じ「気の毒」でも頭がおかしいのでは?という「気の毒」だったかも知れない。また1階に降り、暫く立っていた。そしたらブラックスーツのホテルマンが寄って来て「失礼ですが」と言いやがる。「何のご用ですか?」。

 「何をっ !」って思いましたけどね。しきりに時計を気にする。キョロキョロする。確かに私の挙動は不審に見えたでしょう。時限爆弾でも仕掛けたのでは? と見られたのかも知れない。しょうがないから「カクカクシカジカ」。相手はすぐ納得しました。午後8時まで待っても来ない。そこでスパッと諦めて帰りました。この暫く後にT副処長ほか一連隊は到着したらしい。何で行き違いになったか、皆さんお分かりでしょうか。ここから下を読まないでお分かりの方は鋭い。金田一探偵レベルですよ。

外賓楼ロビー
 翌朝、T副処長から電話がありました。
「昨日は(ホテルに)早く来られたそうですね」。
「エッ ! どうして私がいたことが?」。
「いえ、ホテルに着いたら、<こういう人が貴方を捜していましたよ>と言われたんです」。
「ロビーに午後7時の約束でしたから7時前に行っていました」。
「ああ、そうだったのですか。それで分ったわ。ロビーって外賓楼のロビーなんですよ。7時に集まって、一緒にマイクロバスで出掛けるってことだったんです。あいにく昨日は道路が混んでいて、ホテルまで1時間20分掛かりました。いつもなら1時間掛からないのに。それはお気の毒なことをしました。もうちょっと早く着いていればねぇ」。
「上師大で予約されているものと思って聞いてみたんですが・・」。
「ああ、予約は私個人の名前でしてあったんですよ」。

 ロビーと言えばホテル。そう思い込んでいたばっかりに、超一流ホテルのサパーを食べ損なったというお粗末でした。
TOP  前頁 NEXT