13. 学生の関心事
寮生がお湯を汲みに行くところ。中国の若い女性は姿勢がよい。これは見習いたい点ですね。

 前に学生がよく遊びに来ることを書きました。8人いつも同じ顔触れで鼻突き合わせて暮しているわけですから、偶には外へ出たい。でも学生だからそんなにお金が掛かる所へは行けない。先生の所なら日本語の会話練習になるし、お菓子も出してくれるしと、まぁそんな動機だったのだろうと思います。以下は彼女たちから聞いた四方山話です。

 こちらの聞きたい事はどうしても学校関係になります。何で日本語科を選んだのか? まっしぐらに日本語科目指して・・という子は、8人中1人しかいませんでした。この子は叔母さんが上海対外経済貿易学院の日本語の教師。だから自分も日本語の先生になりたくてここに入ったと。その正反対。意に反して・・という子が1人。ハルピンの子です。復旦の英語科を希望したんだけれどここに回されたと。その事情なんですが、この子は下放青年子女の権利を行使したわけですから、地域としては上海。これは動かせなかったのでしょう。しかし、統一試験の成績で行くと復旦の英語は無理だった。すると上海なら上師大の日本語科しか空いてないよ・・と当局が裁量したのでしょうね、多分。

 で、あとの連中は、まぁ上師大の日本語科なら何とか入れるだろう・・と受けたと言うんです。じゃ、統一試験とは別なのか? と聞くと、「いや、どうなのかなぁ? 統一試験だと思いますけれど」とハッキリしない。自分が受けた試験の種類、名称を答えられないなんてことがあるだろうか。何かおかしい。私、その後もここの入試が統一試験なのか別の試験なのかずっと疑問に思っていました。ともあれ、この中間的な連中は、上海はこれから日本との関係が深くなる。日系企業は給料もいいから・・という読みで入学したわけです。

 このうち2人が言ったことが印象に残っています。一人は、「日本語は漢字を使うから楽だと思ったら大間違いだった」と。そうですね。意味は兎も角、発音が非常に違う。日本では漢字の音を古音、呉音、漢音、唐宋音と入ってきた順に分類している。古音(ウメ、ウマなど)は不詳だから別として、後の三つの音はその言葉が使われていた地方が違う。だから、例えば「行」という字一つにしても、「修行(シュギョウ)」、「銀行(ギンコウ)」、「行灯(アンドン)」と違います。更に日本語には二重母音がありませんから、おそらく元の音とは変っている。一方、本家の方ですが、今の中国語は北方音が標準になっている。だから字は同じでも発音が違うのは当たり前なんですね。

 もう一人は「中学生のとき友達に日本土産を貰った。非常に精巧な物だった。当時日本は悪く言われていたけれど、こんなにいい物を作る国はどんな国か興味を持った」と。最初の授業のとき「女性の年齢を聞くのは失礼だ」と言った子です。この子はユーモアがあって面白い子でした。

 彼女たちの関心事は何といっても男。年頃ですからボーイフレンドが欲しい。クラスには男子は3人しかいない。「彼らは?」と一応聞いてみた。やはり問題外だと言う。そうだろうと思います。覇気がない。いつも最後列の隅に座っている。存在感がない。男は中央にデンと座るようでなければいけない。で、インターネットで相手を探している子もいた。そんなの危ないんじゃないかと思うんですが、会うときは互いに複数で会うんだそうです。しかし、なかなかいい男はいないらしい。
 
 1人既にボーイフレンドがいる子がいました。鶏ガラみたいなんですが、人形みたいに可愛い子。相手は他の学院の学生。学内で声を掛けられた。大変積極的で優しいのだそう。1日に3回電話してくる。彼女が風邪なんか引こうものならもう大変。毎日風邪に効くというスープを作って、鍋ごと抱えて寮まで持って来る。周囲の連中は「いいわねぇ」と羨んでいましたが、本人はもう一つ気乗りしない風でした。なんか優し過ぎると言うんです。先に言っちゃいますと、この子は結局その男子学生は振ってしまった。近く(04年11月)別の男性と結婚する。一体に上海の男性は優しい。料理も上手。子供の時からやらされるらしい。上に書いたユーモアのある子(Fという)なんか、自分はできないから料理の上手な男と結婚すると言っていました。

 ハルピン子が「先生。反町隆史知っていますか?」と言う。「いやぁ、知らないね。どんな男?」。最近の芸能人は自慢じゃないが全く知らない。知らないんだから、色々説明されたって分るわけない。「で、それがどうしたの?」。本人はにかむ。まわりの連中が「Wさんは大ファンなんですよ」。ハルピン子はWという姓です。ベッドの天井に反町の大きな写真を貼ってあるのだそう。天井というのは、二段ベッドですから、上のベッドの底です。ヘェーッ ! と、ビックリした。みんな、反町に限らず、日本の芸能人の消息をよく知っています。そのせいで、後に反町隆史が大河ドラマで織田信長を演じたとき、初めて見る役者のような気がしませんでした。

 「先生。それでですね。この外賓楼に反町隆史そっくりの男性がいるんですよ。先生、紹介してください」と言う。なんだ。敵は本能寺か。

 まぁ毎度、生徒との会話はそんな風でした。その反町似の男性の話はまたこの次ぎに。
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