17.  給料未払い問題
金書記
右の人が金外国語学院党書記。穏やかな人でした。写真では女性みたいですが、長身の男性です。

 給料のことは前に「4.専科、教課、専家」でお話ししました。大学が基本給(週換算10時間分)1,600元を払う。週10時間を超える分は外国語学院(以下、学院と言います)が支払うという取り決めでした。

 大学の方は給料日に外事処の副処長の所へ行きますと、請求書を切って呉れます。それを別の建物の会計課へ持って行く。薄暗い建物で、昔の銀行みたいな柵があるカウンター。請求書を見せると、係が台帳と照合して確認。パソコンにデータを打ち込む。プリンターがジーッと鳴って伝票を打ち出す。 その伝票を貰って隣の出納課へ行く。出納員は伝票に基づいて机上の棚からお金を取り出し、紙幣は簡易紙幣計算機で再勘して寄越します。こちらは伝票にサインする。最初に外事処の副処長が席を外していなければ、そして会計課が混んでいなければ、給料は何の問題もなくsmoothに貰えました。

 初めて会計課へ行ったときなんか、窓口の係が奥に向かって何か言った。奥の何人かが「おお日本人か。お早う」とかナントカ片言の日本語を。みんなニコニコ歓迎ムードで気持ちがよかった。その後も私が行くと、何かと声がかかる。とても友好的な雰囲気でした。

 ところが・・・ですね。学院の方は、給料日を過ぎて事務室に「給料は?」と聞いても、「まだ上から回って来ません」と素っ気ない。主任に請求しろと言うんです。しかし、このU主任という人はこれまでの付き合いで、「ハイ分りました」が当てにならない人だと分っている。責任感のカケラもない人。何か話す度に不愉快になる。贅沢さえしなければ、基本給の1,600元で取りあえず生活して行けます。何しろ朝飯が2元で済むんですからね。これは日本人共通の欠点かも知れませんが、私も「ゼニ、金、money」の話はあまりしたくない。相手がU主任なら尚更です。武士は食わねど高楊枝。それで主任には請求しなかった。

 それが2ヶ月くらい続きましたか。私、「これはヒョッとしてU主任って外国人の給料を猫ババする人なのか」と思っていました。ところが或る日、校舎の前で顔を合わせたらいきなり「先生、給料です」と、2ヶ月分まとめて寄越した。忘れてはいなかったみたいです。ただ、「遅くなって済みません」なんて一言も言わない。これは確か4月のことだったと記憶しています。

 次の5月。また給料日が過ぎても支給されません。たまたまM先生と会ったら「お給料貰いましたか?」と聞かれた。「いえ、貰っていません。先月もカクカクシカジカ」とお話しした。「あの人はいつもそうなんです。もう勘弁ならない」と怒っている。彼女もずっと同じ目に合って来たのだそう。学院の給料は時間給ですから、何時間働いたかをまず主任が計算してそれを副院長に報告。副院長が請求書を切らないと、事務室ではどうにもできないと言う。ここを何とか変えさせないとダメ。二人で事務室へ交渉に行きました。そうしたら偶々党書記の金さんが事務室にいた。我々の話を横で聞いていて「それはいけない。そんな事があったなんて知らなかった。すぐ善処します」と言う。

 皆さんよくご存じのとおり、中国では大きな組織には必ず党書記がいます。大学も同じで、学長の他に大学党書記がいて、その下の各学院にも学院長の他に党書記がいる。教育系統とは別組織なので、教学について直接口を出すことはないらしい。普段何をやっているかと言うと、週に一度水曜日の午後、教職員を集めて政治教育をしています。おそらく党中央の、例えば江主席重要講話などの伝達徹底を図っているのだと思います。この金さんは学院党書記。給料支払いは教学系ではなく事務方の問題ですから、彼の守備範囲に入るのではないでしょうか。すぐ指示を出したらしく、翌日になったら事務員が呼びに来た。何事かと思ったら給料が出た。この一件で党書記って偉いんだ・・とよく分りました。

 どのように仕組みを変えたか。事務方のトップの副院長からU主任に、前月の私の働いた時間数を照会する。確認したその時間数に応じて副院長が請求書を書き、事務室に回す。私が事務室に貰いに行く。そういう段取りに変った。ところが副院長がU主任に電話してもU主任が掴まらないことがある。U主任という人は留守中に誰かから電話があっても、自分から電話して来る人ではない。それは私何度も経験している。返事を待つのは時間のムダなんです。そこで副院長が執拗に電話すれば繋がるのでしょうが、副院長だって忙しいだろうし、また面子もあるだろう。何と言っても副院長の方が上なんですから。そんなわけで、折角改善されたかと思ったけれどうまくいかない。そういうことが何回かありましたが、私やっぱり金の話はしたくない。黙っていました。

 そのうちにまた偶々事務室で金書記に会って、「その後どうですか?」と聞かれた。そこで「カクカクシカジカ」。そしたら金書記、すぐ副院長を呼んでいろいろ事情を聞いている。私言ったんです。「労働節、国慶節などの休日がない平常月は働く時間数はいつも同じ。固定している。主任に確認前に払っても何も問題はない。もしあったら翌月調整したらよい。私は誤魔化しなんか絶対にしませんよ」と。金書記も「おおそれがいい。そうしなさい」と言って、それでやっと給料日に給料が貰えないということが無くなりました。

 自分のこういう経験だけで他もそうだと単純に類推するのは危険かも知れませんが、まぁしかし、おそらく、非常に不合理な或いはムダな手続きが、他にも一杯あるのでは・・・という気がします。街中だけでなく大学の中でさえ、「実事求是」とか「文明振興」などという標語をよく見掛けます。ところが、一般社会よりずっと進んでいる筈の大学でこんな風です。根本的な問題点は、「問題があったら自分たち自身で改善して行く」という気風の欠如ではないか。そんな気がします。
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