18. 契約問題
外事処・国際文化交流学院
外事処・国際文化交流学院。語学留学生の教室があるので建物が大きい。
 本来なら秋の新学期から雇用されるべきところを、私の場合は春の後期から「取りあえず半年」ということで雇われている。周りの外国人教師にそれとなく聞いてみると、みんな1年単位の契約だと言う。また、母国からの渡航費も全額かどうかはハッキリしないが、何がなしかは支給されているらしい。雇うのは大学だから、向こうの都合で「半年ポッキリでお終いだよ」と言われても文句は言えない。それはそれで仕方がないのだが、しかし、他の人が1年なら、できることなら私も1年はやりたい。半年でまた帰国じゃ忙しいばっかりで面白くない。

 そこでU主任に、「来期はどうなるのか」と聞いてみた。すると「前任者の強っての希望があって・・」と言う。半年でお仕舞いということですね。しかし、こちらは「病気で辞めた前任者の意向がどうしてオレと関係あるの?」と首を捻る。理解できない。私も勘が悪かった。後で気が付いたのですが、前任者は「すぐ帰任できるからポストを空けて置いてくれ」と言い残したんですね。だからU主任はすぐに後任を探さず、半年間M先生に穴埋めさせておいた。前任者の注文をマトモに聞いていたわけです。癌の手術をした人がそんなに簡単に復帰できるわけはないのに。

 ま、とにかくその時は、U主任が前任者にそういう約束をしているとは気が付かなかった。M先生も私からその話を聞いて、「辞めた人は関係ないでしょう」とおっしゃる。それでまた改めて、「来期は無いんですね」と念を押した。今度は「外事処の意向なんです」と言う。ここに至って私も遂に堪忍袋の緒が切れた。話が一貫しているのならまだしも、言うことがコロコロ変る。そして意味がよく分らない。更に不可解なのは、外国から来ているのに学院長にも紹介しない。これは甚だ失礼ではないか。U主任を相手にしていたら埒があかない。そこで学院長に直接面会を求めることにした。確かこれは5月頃だったと思います。

 外事処のP副処長に話した。「専家として着任して学院長に挨拶もしないなんて、日本では考えられないこと。ご挨拶をしたいから、こちらから取り次いでほしい」と。そしたら「えっ、まだ会っていないんですか。それなら学院長にすぐ連絡します」という返事。けれども「貴方は専家じゃありませんよ」と言われ、今度はこっちが「エッ!」 と絶句。じゃ、貰ったあの専家証は一体何なの?  事のついで「外事処の意向で私は半年限りと聞いているが」と言ってみた。すると「こちらではそんなこと言っていませんよ」という答え。まぁホント、何が何だかサッパリ分らない。まるで真っ暗闇の中に一人ポツンと置かれているような気分でありました。

 数日後P副処長から連絡があり、間もなく外賓楼の食堂で学院長との会談実現。私は間に誰も入れないで話すつもりだったんですが、学院長はU主任を連れて来た。通訳のつもりらしい。まずこちらから「日本では着任したらすぐ所属長に挨拶に上がる。しかし、今までU主任から何の話もなかった。それがこちらの流儀かと思い控えておりました。ご無礼しました」と、まぁ皮肉を言ってやった。先方は「いや、こちらこそ失礼しました」。バツが悪そうでした。

 私、「契約は半年と言われているが」。院長、「通常外国人教師は半年契約で2回。1年が限度です」。私、「来期はどうなる?」。院長、「やっていただく」。私、「専家と聞いてきたがそうではないらしい。どういうことか?」。院長、「今まで日本語科は専科だった。専科は専家を雇う資格がない。幸い来期から日本語科は本科に昇格するので、貴方を専家にする」。

 ここまでのやりとりで、どうもU主任の通訳が怪しいと気が付いた。話が時々脱線する。こちらからもう一度同じ質問をしてレールに戻す。よく見るとU主任は震えている。緊張の極にあるみたい。そこでもうこの人はダメと見切りを付け、下手だけれど英語の直接会話に切り替えた。

 私、「今まで荷物みたいな扱いをされていた」。院長、「大変失礼した。来期は前副院長を貴方の担当にする」。私、「担当している3年生の学力が低い。科として対策を考えるべきではないか」。院長、「そんなことは教師同士で話してくれ」とニベもない。私、「週に一度、教師の会合があるそうだが、出席させて貰えないか」。これは院長からU主任に行き、U主任から「外国人は黙って教えていればいいんだ」という答えが返って来た。なんか院長のカンに触ったみたい。後で知ったのですが、この週一回の会議というのは共産党の政治教育の場だったんです。私の誤解。私は教育についての会議だと思っていた。相手は「こいつ、我々の仕事に口出しするつもりだ」と取ったみたいです。

 最後にU主任に「後期は6月で終わるそうだが、3年生は1ヶ月早い5月で修了と聞いている。それは確かか?」と聞いた。試験問題作成の必要があるから、これはどうしても確認しておかなくてはならない。U主任、「いや6月だ」。そして「H先生の推薦があったからあんたを採用してやったのに」と恨めしげに言った。すっかり面子を潰されたと言いたいのでしょう。こちらにしてみれば、今まで我慢に我慢を重ねてきた。何を今更・・という気分。

 そういう台詞が出るということは、自分の仕打ちが相手にどういう影響を与えているか全く分っていないということ。普通の人なら「自分にも非があったかな?」 くらいは考えると思う。反省なんて言葉はこの人の辞書には載っていないんでしょうね、きっと。
  TOP  前頁 NEXT