20. 学生にお説教
標語
ここは西部キャンパスの入り口。学内のあちらこちらにこういうものがあります。
 大学は6月に終業。最上級生はその1ケ月前に卒業させるのが慣例だとM先生に聞いている。何故1ケ月早いのかと言うと、それは就職活動の為。以前は大学卒業者は国が就職先を決めていました。つまり、配給していた。本人の希望どおりの所へ行けたかどうかは別として、就職できないということはあり得なかった。ところが最近は個人の自由を認めるようになり、就職先の選択は自由になった。その代わり、仕事は自分で探さなくてはならない。こちらの大学には日本の大学のような就職対策課なんてものはないのです。

 担当している3年生は最上級ですから卒業です。教師は試験問題を作らなければならない。それについては二つ問題があった。一つは、卒業は5月末か6月末かということ。M先生は前者。ところがU主任に確認すると後者だと言う。どっちがホントなの?  もう一つの問題は、どう贔屓目に見ても卒業不可能じゃないかと考えられる学生がいること。

 前にもちょっと書きましたが、2班には特別ひどい学生はいない。ところが1班には、こちらの簡単な質問の日本語が分らない学生がいる。そして授業中私語ばかりしている。私語は少ないが、コンパクトを覗いたり、携帯をいじったり、雑誌を読んでいたり、更には次の授業の下調べをしている学生もいる。日本の大学生の受講態度も昨今はひどいものだと聞いています。私語さえしなければ授業の邪魔にはならないから、何をしていようとまぁ構わない。しかし、試験にパスしない学生ってのは問題です。

 話はちょっと戻ります。授業を始めてすぐ、私は「この1班と2班はどうやって分けたのですか?」とU主任に聞いた。彼はそれを知らなかった。教務課という部署があって、そこで決めたのだと言う。私がそういう質問をしたのは、同じ学年なのに二つの班に余りにも大きな格差があったからです。学力だけでなくクラスの雰囲気も違う。授業を続けながら、何でこんなに違うのかと疑問に思い続けていました。

 私の到達した結論はこうです。2班の方には復旦を志望したけれど入れなくて、上師大に回された子がいる。ハルピン子です。その次ぎくらいのレベルの子達とその優秀な子とが同室で仲がいい。このグループがクラスを何となく引っ張っている。多少できない子もいますが、全体に明るい。一方、1班はできる子も何人か居るけれど、その子達はバラバラ。そして、ひどくできない子達は3年生でありながら1年生程度のレベル。どうして進級して来られたのか、それが不思議なくらい。と言うことは、この連中は情実入学ではないか?  そうとしか考えられない。できない学生が多いと全体の足を引っ張ります。そういうことではないのか。

 L先生という男の先生がいました。前の主任。原因は何か知りませんが、学院長と喧嘩して主任を辞めたのだそう。お父さんが台湾人でお母さんが日本人。「本人は<東大で勉強した>と言っています」とM先生から聞いていました。U主任は私に同僚教師を一人も紹介しなかった。この方には私の方から教室に訪ねて挨拶しました。このL先生。猛烈に厳しいのだそう。予習をしていかないと叱られる。だから、私の授業中に下調べをしているのはこのL先生の授業の為なんです。

 U主任じゃ話にならない。このL先生に相談してみました。「1班のできない学生の親を呼び出して警告したいのですが」と。「警告って何ですか?」。「このままだと卒業できないと私は思うのですが・・・。<もっと真面目に勉強させて下さい>と言いたいのです」。「中国の大学では親を呼び出すことはありません」。まぁそうだろうな。日本だって、親を呼び出すのは高校までだ。ついでに聞いてみました。「どうしてこんなにできない学生を進級させるんでしょう」。「いや、私もそう思うんですが、どういうわけか皆さん(低学年担当の先生のこと)甘くてパスさせちゃうんですよね」。L先生も低学年は教えていない。彼も私と同じ思いであるらしい。 

 仕方がないからある日、できない学生3人を私の部屋に呼びました。3人とも男子です。親の職業を聞いてみた。一番できが悪いのが役人。二番目は母親が会社を経営している。三番目は教師。「君たち何で呼ばれたか分るかい?」。いいえ。「今の君たちの学力では卒業できないよ」。そうしたら、二番目にできない学生が「絶対卒業できます」と言う。これにはこちらがビックリ。どうして?  「中国では大学に入れたら必ず卒業できる」。そんなの答えにはならない。「いいえ、卒業できます」。よく聞いてみると、今までみんな卒業しているではないか・・と、それが理由。「入ったら卒業させるものなのだ」。彼は頭からそう信じているわけです。だから勉強しない。言外にそう言っている。

 「私は3課目担当している。そんなに難しい問題は出さないが、君たちの学力では合格しないのではと心配だ。相当勉強しないとパスしないよ」。二番目が「必ず卒業できます」。それしか言わない。こいつがボスなんです。辛うじて比較的マシな親が教師の子が「分りました。もっと勉強します」と答えた。一番できないのは終始無言。「じゃ、しっかり勉強しなさいよ」と言って帰しましたが、それから暫くの間は私の頭の方がおかしくなった。どうおかしくなったか。今までの是非善悪の基準がなんだか信じられないような、足元の大地がグラグラと揺れているような、そんな気分になってしまったのです。
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