23. 留学生募集
岡山へ留学した4人の教え子。一人は縫いぐるみに入っているのかな。日本で撮った写真です。
 卒業が近付くと、平板な日常にいろいろな変化が生じます。或る日、W学生から「岡山のS女子大学ってどんな大学ですか?」と聞かれた。初めて聞く名前。一体何事なの?  よく聞いてみると、岡山からわざわざそこの学長が留学勧誘に来ているのだそう。パンフを見せられた。戦前は裁縫学校だったらしい。戦後女子大に変身。いくら小さな大学でも、中国まで学長が出張ってくるなんて尋常ではない。最近の少子化でおそらく定員を割るようになったのではないか。

 W学生の話によると、他に3人応募したい学生がいるとのこと。中国からの私費留学はなかなか難しい。二つ問題がある。まず中国側の問題として、学費を用意するのが困難。「ハイ。行きます」と手を挙げられる学生は少ない。一方日本側としては、中国人はトラブルメーカーの筆頭。なるべく来て欲しくない。だから希望者が「学費は負担できます」と言ったって、政府はビザを出さない。これが二つ目の問題。

 ところがこのS女子大は「ビザは大学がしっかり取ります」と保証しているとW学生は言う。更に「3年に編入されるのが魅力なんです」と言う。なるほど。それはそうかも知れない。中国の大専卒は日本の短大卒。4年制大学に入るなら、形の上では3年に編入が相当だけれど、学力の点で問題が残る。講義について行けない。だから、3年編入を認める大学は少ないのだと。

 いくら私が信頼されているとはいえ、本人が行きたいというのを止めろとは言えません。しかし、このW学生は単なる興味で日本に行きたいのではなく、日本の大学院を修了し、中国に戻って大学の日本語の先生になりたいのだと言う。ならば、できるだけ良い大学の大学院に進ませたい。S女子大には悪いけれど、S女子大から一流の大学院に進む可能性はどうだろうか?  それはかなり難しいのではないか。そう考えて、夏休みに日本に帰ったらいろいろ調べてみるから、結論は暫く待てと言いました。

 これはこの時点より後の話になりますが、やっぱり帰国して調べてみたら、3年編入を認める大学は殆ど無い。1年からやり直さなくてはならないようです。この他に大学院に進むのには、(中国の)4年制大学を卒業して(日本の)大学院を受ける方法がある。と言うよりも、それしかない。しかし、日本語ができても、専門性の面で数多の日本人志望者に伍して試験を受け、合格できるだろうか。上師大のレベルで考えると、相手が一流大学の場合、まずそれは無理ではないか。

 上師大日本語科は次年度、本科に昇格する。W学生はこのまま本科に進むことも考えた。しかしその場合、本科をあと2年やらなければならないのだそう。何故かと言うと、専科は本来2年制。どういうわけか上師大は2年課程を3年に引き延ばしている。そのことについて一度、他の学生に「何でだろう?」と聞いたことがあります。そしたらその学生は「商売でしょう」と答えた。「1年余計にお金が入りますから」と。ともあれ本科に進むと都合5年在学することになる。w学生は「1年余計だ」と言うのです。そりゃそうだ。一方S女子大3年次に編入になっても、卒業まであと2年要する点は上師大に残るのと同じです。でも、そちらならば早く日本に馴れられるというメリットがある。そして、よりレベルの高い大学にチャレンジできるのでは? と言う。それも全くそのとおり。

 結局、w学生と他の3人はこのS女子大へ留学し、2年後(3年3月)に卒業しました。そして、w学生は目出度く岡山大学の大学院に進みました。これは本人が相当努力した賜物でしょう。同時に、S女子大で強力に後押しして下さったのではないか。学長は岡山大学の前学部長でいらっしゃるとか。W学生の真面目さを評価して下さったものと推測しております。他の3人は帰国したようですが、その後の消息は聞いていません。

 元に戻ります。w学生に相談を持ち掛けられた頃の前後、外賓楼のすぐ傍の体育館で海外留学斡旋会が数日開かれました。これは業者の勧誘会。相当多額なお金を取って斡旋するらしい。覗いてみましたら、ヨーロッパやオセアニア、ロシアなどの大学に斡旋する・・とある。案外アメリカが少なかった。それは何故か分りません。

 やはりこの時期、教室で1班の女子学生が寄って来て、「今度この学校へ行きます」と嬉しそうにパンフを見せた。霞山会日本語学校とある。へぇーっ! と驚いた。霞山会というのは戦前近衛さんが作った中国研究では権威のある団体。会館が虎ノ門にある。たまたま友人のそのまた友人がそこで日本語教師をしている。私、その方から月刊「東亜」を沢山頂戴し、その後定期購読者になっています。そんな立派な所でもわざわざ上海まで生徒募集に来るとは。

 その女子学生の話では、他に2人一緒に応募した。誰かと思ったら私が自室に呼んで「卒業出来ないよ」と警告した学生です。いくら専科でも大学の日本語科を出て、また日本語学校へ行くのはおかしい。「何でそんな所に行くの?」と聞いたら、「そこで日本語上手になったら日本で働きたい」と言う。要するに出稼ぎということ。

 この女子学生はお説教した男子学生の中で比較的マトモな奴の女朋友。授業中よく私語や余所っ事している。この子も果たして卒業できるかどうか怪しいレベル。一体何考えているんだろう。全く足が地に着いていない・・・と苦々しく思いました。そういう感覚って当たりますね。やっぱりこの子はこのあと問題を起しました。
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