43. 日本人は狙われる
外賓楼
外賓楼には外部の人も泊まれるようになっていて、時々団体の宿泊がありました。ただし、この写真は本稿とは関係ありません。

 私が上師大で教えていたことと直接の関係はないのですが、ここで[大学といえども必ずしも安全ではない]ということについて、ちょっとお話ししておきます。

 まず一般論として、中国では外国人に対する犯罪は刑が重いのだそうです。そのせいか案外外国人が凶悪犯罪に遭うことは少ないように思います。私が上師大へ行く前に西安の一流ホテルで日本からのツァー客が二人、確かお年を召した女性だったと思いますが、殺されて犯人が未だ捕まっていない。また私が上師大在任中、上海駅近くのホテルで60歳くらいの男性が殺された。この犯人は捕まった。私の記憶している限りでは、被害者が日本人の殺人事件はこの二つだけです。むしろ凶悪犯罪発生率の場合、人口比で見たら日本の方が多いかもしれません。

 で、この2件は当然、どちらも現金目当てです。日本人は現金を持ち歩くと世界中に知れ渡っている。だから狙われる。凶悪犯罪に巻き込まれることは少なくても空き巣、窃盗、スリの被害に遭うことは多い。以下、大学内の被害3件の実例です。

 余所様の話を持ち出して申し訳ないのですが、知り合いの上海理工大日本語専家の方が被害に遭った。ある日授業から自室に戻ったら部屋の中が荒らされていて、現金は勿論、PCなど金目の物がすべて無くなっていた。自室というのは外部ではなく、上師大の外賓楼と同様キャンパス内の専家楼兼招待所です。被害者がすぐ公安を・・・と言ったら、外事処が非常に嫌がった。表沙汰にしたくないということ。でも結局は公安に届けた。大学が届けたくなかった理由は、最後までお読みになればお分かりになります。

 やって来た捜査員の見方によると、これは大学専門の常習犯の犯行。被害者の先生が授業に行っている間にチェックアウトした男がいる。その日まで1週間くらい泊まっていたのだそうです。その先生が遠い郊外のキャンパスに行く日を狙って犯行に及んでいる。泊まっていた間にジックリ偵察済みだったということです。公安は「こいつを捕まえたら一気に千件ものヤマが解決するんだが」と言っていた由。「千件も」と聞いてビックリ。それじゃやられっ放しじゃないか。公安もダラシがないなぁ・・と思った。でも国土が広い。横の連絡は良くない。身分証明書なんか幾らでも偽造できる。条件は日本より悪いのかもしれません。

 この先生(女性)は相当なお金を貯めていたのだそう。いわゆるタンス貯金です。ですから大被害。大ショック。外事処は事件のときは「補償する」と言ったが、いざとなったら言を左右して一向に話が進まない。業を煮やして学長に直接訴えた。誠意を見せないと日本の新聞に投書するとかナントカ脅かしたらしい。そしてやっと全額弁償してもらったという話でした。

 2件目の話。私、外賓楼で知り合いになった語学留学のAさんと泰山に旅行したことがあります。そのとき途中で徐州に寄りました。徐州は有名な所だから見物して行こうということ。ついでにAさんと知り合いの若い女性を訪ねました。その女性は上師大でAさんと一緒のクラスだった。上海には日本人が多くてそれがかえって勉強の邪魔になる。日本人がいない所に行きたい。そういう理由で、我々の旅行のちょっと前に徐州師範大学に移っていた。こういう見上げた精神の語学留学生もいるのです。で、その女性が盗難の被害者。

 その人も大学が用意した宿舎に入った。宿舎と言っても、私そこを実際に見ましたが、校舎の端のような所。最初の晩は運び込んだ荷物の整理がつかなかったので、他の留学生の部屋に泊めて貰った。そうしたらその晩のうちに、部屋は勿論施錠され窓には鉄格子が入っているのに、どうやって運び出したのかPCなどあらかたの荷が無くなっていた。現金は身に付けていたから無事だったけれども、到着した途端ですからショックだったし、何より道具が無くなって不自由で困ったそう。

 大学も驚いたのでしょう。盗られた分以上の補償をしてくれて、結果としてその女性は幾らかプラスになったようでした。ですが、宿舎は別のより安全な所に換えて貰った。このケースには、泥棒が「日本人が来る」という情報をキャッチして待ち構えていたということが窺われます。もしかしたら犯人は学内の人間かもしれない。被害者の女性はその点が不気味だと言っていました。

 最後の1件。これは我が上師大の外賓楼。私の在任最後の期中に起きた事件。日本のある大学から数人の留学生がやって来ました。確か3ヶ月間。それでも帰国してリポートを提出すれば単位になるのだそうです。で、そのうちの一人の女子学生が「机の引き出しに入れておいた6万円が盗まれた」とフロントに訴えた。副主任は「ここでは外部の人間は無闇に入れないようしっかりガードしている。あなたの思い違いではないか」と執拗に聞いたとか。公安には届けたくないのです。

 届けたくないのは何故か。実はその被害者の大学からの当該留学は、昨年までの毎年、奇しくも最初に書いた上海理工大へ行っていた。ところがその理工大で(詳しい事情は分かりませんが)他国からの留学生が殺される事件が起きた。日本側の大学は「そんな危ない所には行かせられない」と、今年から上師大に行き先を変えた。上師大にしてみれば棚からぼた餅です。外国人留学生が増えることは大学の評価に、また宿泊施設の収入増に直結する。表沙汰になるとそのぼた餅に逃げられるかもしれない。それが怖いのです。

 でも、副主任の言うことにも一理ある。表のフロントには常時人がいる。裏口は施錠されている。確かに怪しげな人間は入れないようになっている。仮に泥棒が侵入に成功したとしても、真っ直ぐその被害者の部屋へ入り、その引き出しの現金だけ盗んで逃げたとはちょっと考え難い。またこの数年来、外賓楼内で現金盗難事件は皆無だったとのこと。

 でもその学生は思い違いではないと言い張った。結局公安に届け、捜査員が来て調べ、普段よく出入りする友人が疑われて部屋を調べられたりしたらしい。しかし、結局何も分からず仕舞い。一緒に来た仲間達は、「あの子は普段からちょっとおかしいんだよね」と反対に被害者を疑っていた。本当に盗難だったのかどうか真相は藪の中。残ったのは仲間内の不信感と外賓楼側の落胆だけ。

 ここで私が言いたいことは、要は「現金を持つな」ということなんです。私、現金は最低限度しか持たない主義。日本から精々二、三万円程度しか持って出ません。思いがけない出費に迫られたときは、クレジットカードのキャッシングで切り抜けます。中国内の旅行でも、カードで払えるものはすべてカードで支払う。その方が賢い。ところが最近(04年11月)、上海総領事館から注意報が出た。日本人が路上で襲われ車で拉致される。そしてクレジットカードの暗証番号を言えと脅され、キャッシングで金を引き出されるという事件が頻発している。十分注意せよとのこと。おそらく犯人グループは日本帰りの中国人でしょう。

 カードを狙われるのは困るなぁ。これからは、上海へ行ったら、暗い所や人気のない所を歩かないようにしなくちゃ。ま、外国ではいつも用心を怠ってはいけないということですね。
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