44. 教育か営利か
太極拳教室
ツァーなのか短期交流なのか、滞在1週間程度の団体が時々来ていました。そういう人たちの即席太極拳教室です。

 本稿までに既に何回か、外賓楼という施設の性格が仄見える事実を書いてきました。それをもう一度繰り返しますと、食堂の料金が高い。U主任が私に学食のカードを作ってくれたとき「外国人の先生には外賓楼で食事して貰わないと困るのだけど」と言った。大学は私の部屋代として月6,000元という法外な金額を外賓楼に支払っている、などなどです。

 細かいようですが、もう少しこういった事実を書いておきます。赴任直後のこと。一度、日本の留守宅からFAXをさせたことがあります。こちらはそんなものタダだと思っている。ところが、たった1枚の受信に5元請求された。受信に電話料は掛からないはず。するとこれは紙代ということになる。しかし、A4版の感熱紙1枚に5元とはべら棒。呆れ返ってものが言えませんでした。

 部屋の電話代。最初、月100元までは免費ということでした。私、国際電話はKDDカードで掛けている。料金は日本の口座で落ちる。あとは偶に上海市内に掛ける他、Eメールの送受信をするくらいのものですから、毎月請求はゼロだった。或る時、突然新しい電話線が引かれた。副主任に何なの? と聞いたところ、「こちらの方が安いから引いて上げました」と言う。珍しく気が利くと感心。早速電話をそちらに繋いだが通じない。文句を言ったら「201のカードを使いなさい」と言うだけ。201のカードを買ってどう使うのかフロントの小姐に聞いた。「分かりません」。副主任に再度尋ねたが「使い方は分からない」と言う。話にならない。

 しょうがなくてアメリカ人教師に質問。そこでやっと新線を引いた経緯が分かった。彼らはパソコンをネットに繋ぎっ放しにする。すると彼らにとってはとんでもない金額の請求が来る。そこで、カードで支払いが済み、かつ料金が安い線を引くように要求したのだそう。つまり新線は電話用ではなく、ネット接続用だった。質問ついでにそのアメリカ人にパソコンの設定も教えて貰いました。後で外賓楼主任に、「(新線について)みんな何も知らない。対応が悪い」と苦情を言った。そしたら「教育がない人たちですから仕方がない」でお終い。「済みません」なんて一言も言わない。

 暫くしたら月20元程度の請求が来るようになった。従来の100元まで免費の特典を廃止したのだそう。おそらく新線を引いた経費を賄い、かつ増収を図るということだったのでしょう。或るとき、私以外の外教が廊下に集まって何か協議していました。私には声が掛からなかった。おそらく外事処に抗議したものと思われます。結果がどうなったかは知りません。

 前に書きましたが、外賓楼の部屋にはキッチンが無く、自炊は禁止でした。けれども家内が来ている時には、卓上ガスコンロを買ってきて偶にカレーなどを作ったりしました。するとご飯が必要です。語学留学生で炊飯器を用意している人もいました。余談ですが、突然停電になることがよくあった。それは一時にあちらこちらの部屋で炊飯器を使うからなんです。外賓楼は昔の建物で電力容量が小さい。忽ち元がショートしちゃう。だから自炊が禁止されているわけ。

 それはともかく、私はそういうとき食堂へ行ってご飯だけ買ってきた。代金はタッパ1杯で大抵1元か2元くらいのもの。或るとき、厨房のボスが偶々私を見付けて、さも憎たらしそうな口ぶりで小姐に何か指示した。小姐は困ったような顔をしながら「10元です」と言う。ボスは私が外賓楼の住人でありながら、普段食堂を利用していないのを知っている。その腹いせに数倍の金を取るよう命じたのです。

 彼の意識構造では「外国人が金を落とし中国人がそれで食べていく。それは当然のこと」となっているのでしょう。中国政府の「日本が中国を援助するのは当然」という類の談話を聞く度に私、あのボスのでっぷり肥った体躯と私を見る憎々しげな目つきを想い出します。
新事務棟

(写真)上の写真の壁の向こうは当時、資材置き場みたいな所でした。04年8月にはここにこのように校歴記念館と大学事務棟が建ちました。マンション分譲で得た資金が建築原資だろうと思います。
 以上は私自身の経験です。他の人たちも似たような経験を強いられています。私の教え子と結婚した30過ぎの男性。外国人の一般住宅居住が許されるようになったと聞き、「外賓楼から出たい」と申し出た。ところが外賓楼側は許さない。「そんな許可は聞いていない」の一点張り。すったもんだやっているうちに期を跨いでしまった。

 期が変わると宿舎費を前払いしなくてはならない。その男性はそれを払ったあとで、一般住宅居住解禁の法令をやっと確認できたらしい。で、その法令を盾に外賓楼と交渉した。法令を突き付けられたんじゃ外賓楼も太刀打ちできない。降参した。その男性は外に部屋を借りた。外賓楼に払うお金に少し足せば広い部屋が借りられるのです。そして出て行く時、前払いしたお金を返してくれと要求した。ところが外賓楼は一旦受け取ったお金は一切返さない決まりだと言う。そういう約定になっているらしい。結局彼は、殆ど住まない1期分をムダにして出て行きました。

 このように外賓楼は、露骨に言えば、「外国人からお金を搾り取る装置」です。どうしてそうなっているのか。大本まで遡ると、八路軍は自分たちに必要な食料や物資を自給し、人民に負担を掛けなかった。それで人民大衆の信頼を得、革命を成功させることが出来た。中国の諸機関はその伝統を引き継いでいる。つまり自力更生の原則です。自力で稼がなければ不足分は税金を充当しなくてはならない。ですからその精神は大変結構だと思う。けれども、物事には自ずから限度というものがある。上の例のように度が過ぎるのは問題です。

 それは外賓楼だけではない。学院の方も自学習班を年々拡大し増収を図っている。途中で辞める学生が出ると担当教師を「予算が狂う」と叱る。そうなってくると、そもそも大学って何の為にあるの?  教育機関なの?  それとも営利機関なの?  その辺がぼやけて来ます。大学まで「向銭看」になっていいものだろうか。他国のことながら大変気になる。大学って、どこの国でも国家百年の計にかかわる人材育成の場だと私は考えているのですが・・・。私の考えは青臭い書生論でしょうか?
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