8. 授業をしてみると-2
警告板
東部の門脇に一時出ていた警告。紅緑灯というのは信号のことです
 朝食を済ませ教室へ向かいます。時には授業で使うコピーを取りに印刷室に寄る。8時前だと鍵が掛かっていることが多い。係はギリギリに出勤して来るのです。それが分ってからは、少なくとも前日までには頼んだものを回収しておくことにしました。そうしないと授業が出来なくなる。

 教室に入ると、朝食をパクついている学生が多い。食べている物は焼売、包子、面包に牛乳など。学生食堂で買ってくるんですね。焼売は日本のそれとは違います。中身は餅米で、上が開いている。見た目には小さいですけど腹保ちします。面包はパンのことですが、この場合はカステラみたいな甘いもの。日本の菓子パン様のものは、学内ではあまり見掛けませんでした。偶に煎餅を食べている者もいる。これは正門前の路上(上の写真の辺り)で作って売っている。日本の煎餅とは違います。どんな物かと言うと、鉄板の上に水で練ったメリケン粉を伸ばし、その上に卵を落としてかき混ぜる。好みに応じて辣か甜で味付け。更に刻み葱と「貝割れ大根」と油条を載せ、クルクルと巻いて1元。ラップして寄越しますから、気の早い奴は歩きながら食べる。案外ボリュームがあります。教室でこれを食べている学生は、西部の学生宿舎か自宅から登校して来る学生です。(注)煎餅の写真はこちら。

 自宅通学生は稀でした。上海は東京といい勝負の大都会です。広い。その上交通機関が未発達。したがって遠くから通学するのは困難です。元々中国には、勤めでも学校でも、遠くから通うという習慣がないようです。昔の国営企業は職住近接。大学は学住近接。私の知る限り、どこの大学も全寮制でした。偶々自宅が近い学生だけが自宅通学。許可制ではなく、「寮には入らない」と申告すればよいみたいでした。

 私が教えたクラスの連中は殆どが東部の学生宿舎に入っていた。一部屋に8人。2段ベッド。割り振りは学校がする。それで面白いことがあった。着任の次年度、噂が本当になって日本語科に本科ができました。この本科に進んだ連中は、それまで住んでいた宿舎から引っ越しさせられた。あてがわれた宿舎はオンボロ。湿気があり、鼠が出没する。「なんで?」と聞きましたところ、「新入生に綺麗な宿舎を割り当てるのです」という答え。「え?」。 それだけじゃ分らない。もう一度「なんで?」。

新しい寮
 受験希望者の学内見学というのがあるらしい。親も付いてくる。そのとき、「晴れて入学の暁にはこの宿舎に入れますよ」と綺麗な寮を見せるのだそうな。見せた以上は実行しなければならない。それで新年度になると、先住者は古い宿舎に移住させられる。上級生はもう逃げ出しませんからね。釣った魚に餌は要らないのです。公立の大学なのに、ここにも商売感覚が仄見えます。
 閑話休題。教室内での飲食は禁止されています。学生用のノートの裏表紙に確か7箇条の禁則が印刷されていた。その中にハッキリそう書いてある。更に、教室の壁にもその貼り紙がある。にも拘わらず、みんな平気の平左。みんなで渡れば怖くない・・・です。上の写真をご覧下さい。「信号を守れ」と書いてある。これを見たとき私、第一感「馬鹿げている」と。この当時、中国の大学進学率は高中卒の6%と聞いていた。6%と言えば文句なくエリートです。日本みたいに石を投げれば大学卒に当たるのとはわけが違う。エリートであり、かつ大人の筈。

 そりゃ勿論、「大学生ともあろう者が信号も守れないのか」とは思いますよ。でも、ですね。怪我して片輪になろうが車に刎ねられて死のうが、もう大人なんだからそれは自己責任の問題。大学が口を出すようなことじゃぁないよ。言うならもうチョット次元の高いこと言ってもらいたい。この看板は「ウチの学生は幼稚でございます」と天下に公表しているようなもんだ。教室内の飲食禁止もまぁ似たようなもの。要するに汚さなきゃいいんです。だから私、授業を始めるまでは、学生が飲食していても何も言いませんでした。ただし、授業に入ったら決して許さなかった。

 みんな構内に住んでいるわけですから、遅刻してくる学生は殆どいない。その点感心でしたが、もっと感心したのは、休む奴がいないこと。私、必ず出席を取った。それには大した理由はない。ただ何となくです。学生には「出席は成績に関係ないよ」といつも言っておりました。実は私、大学のとき碌に授業に出なかった。寝坊助でしたから、早い時間のクラスなんて先生の顔殆ど知らない。試験だけ受けて単位を取った。自分がそんなでしたから、ここの学生も朝が辛いのではないかと考えた。眠かったら寮で寝てていいよ・・と伝えたつもり。ところが休まない。これは私にとっては善し悪しでしたね。

 語学って本読めばいいってものじゃない。耳で聴き口で実際に話さないと憶えられません。それも量やらなくてはダメ。ということは、理想は個人レッスン。クラスなら少人数。1クラス30人は多過ぎる。語学でなくても、教師の立場で言うと学生は少ない方が楽です。でもみんな休んでくれない。この出席率の良さは一体何なのか? 強いて理由を探せば、前にも書きましたが、授業数が非常に少ない。一日に1コマか2コマしかない。それも午前中に限られている。午後はフルに使えます。遊びに行くにせよバイトするにせよ、その時間はタップリあるわけです。 だから授業サボると時間を持て余す。そういう理由だったのか。いや、やはり真面目に出ていないとすぐ分らなくなるから出なくちゃ・・ということだったのかな。しかし、それにしては不可解なことが多かったですね。

 長くなりました。一度切ります。
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