12. 初級班開講 50音図の練習 「あいうえお」から始めます。

 翌日は初級の開講。時間前に教室に入ると、既に大勢人がいます。黒板と黒板拭きを見たら、昨日使ったままの状態で汚い。小Xを呼んで掃除を命ずる。何のためのアシスタントだ! 小Zという小Xと一緒に雇われた女の子が、私用の湯飲みを持って来る。中にはお茶っ葉が入っています。

 余談です。中国人は本当によくお茶を飲む。バスやタクシーの運転手も常時お茶の瓶を携行しています。教室にも既にお湯が入ったポットが2本も置いてある。初めは単純に、中国人はお茶好きなんだと思った。次に、大気が乾燥しているせいだと思った。そのどちらも事実なんですけれど、もう一つ、お茶を好む理由がある。O先生は私にいろいろ生活上の注意を与えてくれましたが、その中に「水を飲まないように」という一項がありました。「残念ながらわが国の水道水はまだ衛生面で問題がある」と言う。水に限らず中国人は生ものを決して口にしません。だからその裏返しで日本人が刺し身を好むというのは奇異に感じるらしく、(後日のことですが)これはしばしば中国人との間で話題になりました。

 ドンドン生徒が入って
来て定刻に開講。この後も毎回、全員揃おうが揃うまいがピタッと定刻には開始しました。時間厳守。日本文化を教えているつもり。今日もO先生とSさんの訓示から始まる。通訳はL氏。今回もSさんの話は長い。この人はどうやら演説好きらしい。この前聞いた時は申込者20名ということでしたが、名簿は33名。点呼を取ったら30名いる。開講前に急に増えたのだとか。見学者も何人か来ていて、かなり大きい部屋が人で一杯で暑苦しい。

 生徒名は多過ぎるからここでは一々紹介しません。一番の年長者が45歳の歯医者さん。最年少が19歳の会社員。どちらも女性。王、金、張など同姓がかなりいて、どう呼ぶか決めるのに時間がかかりました。 まずローマ字で50音の発音練習。アイウエオは無難だが、カ行以下になると、例えばsaがseになったり、n音とr音の区別が怪しかったり。ガ行音が出ない者もいる。ローマ字は音声記号に近いから発音練習には平仮名より適当だろうという発想なんですが、結果としてこれは間違いでした。aiueoはアイウエオと思うのは日本人だけ。考えてみれば、このことは既にフィリピンで経験済です。フィリピン人もaとeの別がはっきりしません。それならば、いきなり平仮名から入っても同じことでした。先入観念を取り除くのはなかなか難しいです。

 人数が多くて疲れる。少し早いが8時くらいで休憩を取りました。すると見学者の中から女の子連れの夫婦がやって来て、父親が日本語で「この子を入れたいのですが・・・」と言う。娘は小学校の2年だとのこと。自分は日本語を覚えた年齢が比較的遅かったので、あまり上手ではない。外国語は小さいうちに覚えさせた方がいいと思うが如何でしょう? 「それはまぁその方がいいでしょうね」と答える。問答の傍らで、その女の子が何かしきりに父親に訴えています。どうもやりたくないらしい。それに対して父親が説得を試みている様子。そこへ他から声がかかったから、いいとこ幸い逃げ出した。子供を夜の9時半まで勉強させるなんて感心しません。本人がやりたいというなら別だけれど。

 次は平仮名の書き方。私が黒板に「あ」と書き、生徒には予め用意した練習用の紙の升目の中に書かせる。本来ならば市販の平仮名練習帳をコピーして使うところ。しかし3週間も前にそれらを入れて日本から送り出した荷物が未着なのです。だから用紙は持参したワープロで作りました。書き順や棒の間隔、角度、点の位置など注意点を説明しながら進めます。林氏がそれを通訳する。時間がかかる。9時でもう一回休憩。9時半でも50音の半分くらいしかいかない。45分まで頑張っても終わらない。残りは宿題にして一日目は終わり。

 実はこのペース、初心者に対しては早過ぎるんです。でもあまりゆっくりもやっていられない。テキスト「新日本語の基礎T」の25課を125時間で終わらせるのは大変。50音と発音練習を考慮すると実質27課から28課分ある。単純に計算すると1課につき4時間から4時間30分です。しかし一コマが2時間30分。すると二コマは使えないことになります。文法が違う。そして基礎文型の他に年月日、曜日、朝昼晩、あした・あさって・きのう・おととい、時間の読み方・呼び方、左右上下前後など基礎語彙をたくさん覚えさせなくてはならない。ですから生徒には酷と承知のうえで急がなくてはならない。辛いところです。

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