13.  問題続出  1)コピーのこと
 授業開始前に、予想外の障害にぶつかった。コピーが制限されたのです。字の練習では練習用紙が要ります。当然人数分のコピーが必要。
 
 それで小Xと小Zに言いつけて最初の授業のために数ページ分をコピーさせたら、小Oがすっ飛んで来た。「これは何ですか?」と言う。何ですかもかんですかもあるものか。授業に使う。「これから先も同様にコピーするんですか?」。左様。「それは困ります」と言う。何言ってるんだろうこの男。用紙なりテキストが全員に行き渡っているのならともかく、教師が持っている物一つしかなければコピーするしかないではないか。それが出来ないとなれば授業は成立しない。「それなら仕方がないが、なるべく少なくして下さい」と言う。

 市政府主催の日本語クラスで役所のコピー機を使ってコピーするのが何で悪いの? 「ここは役所です」。そんなことは先刻承知している。「役所だから予算が決まっています。ウチだけで他の部署の分まで使ってしまってはまずいんです」。ならば生徒から取った授業料から予算超過の分だけ払えばいいじゃないの。「それはできません」。何で? 無言。私には何だか理解できない。が、まあなるべく少なくするよう努力しようと言ったら、不承不承帰って行きました。これでは先が思いやられます。  

 2)荷物が着かない
 新日本語の基礎には、周辺教材として絵カードや会話ビデオ、復習ビデオなどが用意されています。今回のクラス開催に当たり絵カードと会話ビデオは市政府に買ってもらい、復習ビデオは湘南国際交流会に寄付していただきました。そうそう。私は故T先生と同様、湘南国際交流会の会員になり、同会からの派遣という形で赴任したのです。で、それらの教材は発売元の(株)スリーエーネットワークから数個に分けて発送済です。そのうち絵カードは無事に到着。が、ビデオと仮名練習帳などを入れたパッケージが授業が始まっても到着しない。仮名練習帳は自作で何とか凌げる。しかし会話ビデオがないと困る。ビデオの有用性についてはフィリピンで経験済です。百聞は一見に如かず。一つの課の終わりに会話ビデオを生徒に見せて、すぐ実演させる。ロールプレイですね。フィリピン人は乗りがいい。彼らは恥ずかしがりながらも、一所懸命上手に演じました。

 復習ビデオは5〜6課ごと既習語彙を使った一つの劇になっていて、全体としてもつながりがあるストーリーです。日本の会社のオフィスや居酒屋などの場面があり、それ自体日本紹介にもなっているんです。ビデオなしの授業は未経験だからこれは推定ですが、ビデオを使った場合、おそらくテキストだけの学習の数倍の効果があると思います。

 心配なのでスリーエーネットワークに国際電話をかけて発送日を確認。確かに8月中旬、神田の郵便局からSAL便で送っていますという回答。発送控えをFAXしてもらうことにしました。どうも中国側に問題がありそう。Sさんに何とかならないかと相談する。彼女は、郵便のことはどうにもならないと言う。R氏に相談したら「ビデオだから引っかかっているんです」と言う。盗まれちゃうかな? 「うん取られちゃうかも。なんせここは中国だから」。中国人のくせに彼は中国をまるで信用していない。さぁ困った。復習ビデオは湘南国際交流会に寄付していただいた。紛失したら会員の皆様に申し訳がない。 ふと閃きました。中級クラスの毛は郵便局の職員。早速R氏から彼に電話してもらい、調べてくれと依頼。発送控えを次の授業の際、彼に渡すことにしました。

 3)L氏と口論
 ビデオの件とは時間的に前後します。これは授業開始1週間くらい前の話。絵カードというのは材料が厚目の板目紙で、汚れに弱いし折れ易い。しかし、大切に使えば半永久的に使えます。価格は新基礎Tが6万円くらい。Uが確か4万円くらい。中国側にしてみれば安い買い物ではないから、しっかりした入れ物に保管して使いたい。R氏は授業関係はL氏の担当。彼に相談して下さいと言う。そこでL氏をつかまえてスチールロッカーを買ってくれと言った。そうしたら「とんでもない」と拒絶された。 えー? 私は物を大切にしようと考えているのに、とんでもないとは一体どういう了見だ。以下はその問答です。

(L)先生はビデオや絵カードなど高い教材を一杯買った。これだけでも赤字の心配が
  ある。そのうえロッカーなんか買えない。

(私)先生は・・って言うけど、これ、ちゃんと了解取って買ったんだよ。
(L)そうだけど高いよ。それに先生の出迎えに7百元もかかっている。おまけに高級
  レストランで高い昼食を食べた。

(私)何だって! 私は確かに上海までの出迎えを頼んだ。だけど自家用車で来い
  なんて一言も言ってないぞ。乗り物はバスだって汽車だって構わなかったんだ。
  それにレストランだって案内されたから仕方なしについて行っただけで、こっち
  から要求したわけじゃない。また、私は沢山食べないよ、ラーメン一杯で十分だ
  とちゃんと断ったんだ。なのに、そっちで勝手に注文したんだよ。文句があるなら
  Sさんに言ってよ。

(L)とにかくロッカー買うお金はないです。
(私)高い授業料取ってるんでしょ。これは私の個人的費用じゃないんだよ。
(L)赤字になったら困るんです。
(私)なんで?
(L)この事業はSさんとRさんと私の共同責任で、赤字になったら3人で負担すること
  になっている。

(私)えー! これは初耳。じゃ黒字になったら3人で分けるの? 
(L)それはまだわからない。
(私)授業料1500元×生徒数40人=6万元(約87万円)だよ。私の月給と家賃5か
  月分で12500元。ビデオと絵カードが計13万円として約9000元。雑費を入れて
  も23000元。ざっと37000元は残るよ。

(L)いや、全員から授業料取れないし、それにI顧問の航空運賃やホテル代も払わな
  ければならない。

(私)全員から授業料取れないってどういうこと?
(L)3か月だけという生徒もいるし、それにSさんの親戚とかいろいろあって・・・。
(私)僕は航空運賃自己負担で来ているんだよ。そのうえ鎌倉ではSさんは1500元
  払うと言ったのに、ここに来たら1000元しか払わない。これじゃ毎月赤字だよ。

(L)先生はお金持ちだからそれくらい何でもないでしょ。私は無報酬ですよ。

 I氏招待の是非をこちらはとやかく言えないが、その費用を授業料から払うというのは筋違いじゃないか。肝心の教師には足代払わないで。そう思ったけれど、個人にかかわる金のことで争うのは日本人の矜持が許さない。いずれにせよ不愉快極まる。R氏の部屋へ行って「私は日本へ帰ることにする」と言ってやった。彼は事情を聞くや平謝りに謝る。「後で本人によく言い聞かせますから」などと言う。実際問題ここまで来て帰国するわけにはいかない。日中友好のために来たのだから、喧嘩別れはまずいでしょう。それで折れたけど、この後もLの物言いには時々腹が立った。

 本人は気がついていないのかも知れないけれど、物を訊ねる時詰問するような言い方をする。また一度Lが通訳の授業で、切りが良かったので予定の5分前に終わろうとした。そうしたら彼が寄って来て「もっと続けて下さい」と言う。授業料が高いと言われているので、少しでも長くやって生徒の歓心を買いたいというのです。向こうの事情はわかるけれど、授業のやり方に強圧的に介入するのは気に食わない。ムカッとした。それまでLはただの通訳と見ていたけれど、どうもそれだけではない様子。この機会にR氏にLとの関係を訊ねてみた。R氏は「L君を日本のI氏の会社へ呼んでやったのは当時日本にいた僕なんです。今度彼が日本から帰国するに当たって、Iさんから、当分生計が立たないだろうから面倒みてくれと言われて、それでこの仕事を世話してやったんです」と言う。

 それじゃ無報酬というのは嘘じゃないか。いい加減なことを言いやがって。それと、この教室は役所主催じゃないの?  これは一体何なの? 「外郭団体の形でやっているんです。役所は商売はできない。だから私とL君は市顧問の資格で主催者。でもL君は私の部下です。そして形式上Sさんが監督」という説明。それで独立採算志向もコピー制限の理由も、ちょっと分かって来た。

 私は鎌倉では役所の仕事だと受け取った。けれども役所のようで役所じゃない所の仕事なんだ。濃霧の中で少し晴れかかって周りが見えて来た感じですが、気持ちは依然としてスッキリしません。これはR氏の商売。そして役人の副業なんだ。

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