16. 授業の進行-1  1)ビデオテープ
 日本から送ったビデオテープが届かないことは前に書きました。(株)スリーエーネットワークの調査では北神保町局から発送2日後に上海局へ到着しているそう。すると中国のどこかで止まっているということ。幸い中級の毛が郵便局員。彼に発送控えを渡して調査してもらいました。

 彼はすぐに小包の部署へ行き徹底的に調べた結果、J局には未着ですという報告です。それだけでは話になりません。川上に遡って調べてくれと頼んだら、川上から川下はいいが、川下からの遡上は規則でできないことになっている。だから、これ以上は日本の局から辿るしか方法はないという答え。 のんびりしていられません。既に授業は始まっていますから。そこでSさんに、郵便局長宛て公文を書いてくれと要求しました。市は日本の県に相当する。あんた県の役人なんだから郵便局に命令できるんでしょう? 彼女は渋った。それでもこちらの気魄に押されたのか、翌日には用意しておくと約束しました。翌日事務所に行ったら、問題のテープ入り荷物が届いている。狐につままれたような気がしましたが、取りあえずホッとしました。Sさんもホッとしたに違いない。

 段ボールの外箱のどこも切った形跡はありません。更に中身を点検。テープは薄いビニールでパックされています。そのパックを切った形跡もない。他の書籍類にも異常はない。R氏の話では、ビデオテープを郵便で送ると必ず引っかかる。だから手荷物で持って来ればよかったのに・・と言う。ポルノかと疑われるわけだ。以前ベトナムへ行ったとき、知人の日本語学校へ教材のテープをお土産に持参したことがあります。タンソニャット空港の税関でそれが引っかかり、係はニヤニヤ笑いながら翌日取りに来いと言った。まぁ社会主義国のことだから中身を検閲するなら分かるけれど、今回パックを開いていないということは検閲しなかったということ。そうすると、何で遅れたのか理解できません。日本から上海までは足掛け3日で着いているのに、上海からJ市まで約4週間。これが噂に聞く中国のお役所仕事? 大陸の慢々地か。

 ちょっと脱線します。後日、家から衣類を送ってもらう際、家人に命じてヌード写真入りの雑誌を同封させました。念のため断っておきますが、お世話になった鍼灸医にお礼として贈呈するためで、自分が見るためではありません。そうしたら、見事にこの雑誌だけ抜かれました。勿論外箱をカッターで切って開封した形跡があり、関税法とかの第○条に基づき没収すると書いた南京国際郵便局の公文書が入っていました。口惜しいからその後もう1回トライしました。またやられた。一方、R氏の所へG県の人からちょいちょい同種の雑誌を挟んで新聞が送られてくる。不思議にこれは開封されずに着くのです。苦肉の策。その雑誌を頂戴して贈り物にしました。

 2)中級クラス
 中級の生徒に第一回の授業のあと宿題を出しました。新基礎Tの最後の復習問題E。返ってきた結果は芳しくありません。半分ほどの生徒が文法項目、特に「て形」ができない。「て形」の初出はTの14課の基本文型(リーさんは今テレビを見ています)です。この文型ができないと日本語にならない。どうできないか。例えば「いくら(調べます→調べて)も、わかりません」が正答なのですが、それが「(→調べ)も」だったり「(→調べる)も」だったりするのです。これは困った。中級は26課からスタートします。14課まで戻るわけにはいきません。そこで日曜日に初級文法を補習することにしました。(注)26課も初級なんです。でもここでは中級と称している。生徒の心理をくすぐる為でしょう。

 それはそれとして、授業の基本的なスタイルは、まず単語の訳本(語彙集)を私が読み、生徒が後に続きます。本来生徒は単語を予習して来なくてはいけない。そしていきなりテキスト本冊から入るのですが、何人か仮名が満足に読めないのがいます。また発音になると大半の者が変ですから、丁寧にやらざるを得ません。次いで絵カードを見せて生徒に意味を言わせる。「今読んだよね。これ何?」。生徒が「(電気が)つきます」、「(電気が)消えます」という風に。イメージが定着したところで練習問題に入る。例えば「どうやって電気をつけるんですか」を、まず一人ずつ読ませる。次に、生徒Aから生徒Bに質問させる。生徒Bが答える。さらに生徒同士で、本物のスイッチで教室の電気を消したり、つけたりさせる。理解したところでテキストの文型を読み、会話ビデオを見せ、役を振ってテキストなしで実演させます。そらで台詞が言えない生徒には、前日から暗記しろと言っておきます。中級は大体出席14〜16名でしたから、毎回、全員に実演させることができました。

 会話主体という要求でしたから、文法は中国語訳の副テキストで自習せよということで余りやりませんでした。それと口頭の説明は極力避け、実物による説明と生徒自身を動かすことで理解させることに努めました。文法の代わりに、パナリンガのテキスト「とびら」や前に触れた「数の聞き取り」や「日本語聞いて話して」のテープを使って、毎時間ヒヤリングをやりました。生徒ができたらうんと褒める。生徒が変なことを言ったりしたら、例えば「エーッ」とのけぞったり、「オットットット」とたたらを踏むような大げさなジェスチャーをする。すると生徒は子供のように笑います。とにかく楽しい授業になるように努力しました。

  通訳が入るから、こちらの目論見よりもどうしても時間がかかります。それで、初めのうちは進行を急いで早口になり勝ちでした。勢い生徒の方もこちらの日本語が分からない。そのうちに互いに段々慣れてきて、2週目が終わる頃、R氏が「もう通訳は要らないね」と言い出した。彼は何よりも煙草が吸えないのが苦痛なのです。「じゃあ・・」と、思い切って3週目からは通訳なしにしました。

 前後しますが、日曜日の補習はどうだったかというと、それが必要な者は出て来ない。必要ない者が出て来た。何のための補習だ! 次の授業のとき欠席の理由を聞いたら、仕事やら何やらのせいにする。本当に勉強する気があるのかどうか。そういうこともあって、通訳なしにした段階で、数人の極端にできない生徒には初級に移るよう勧告しました。ところが面白いことに、勧告に従う生徒が一人もいない。薛なんか私の日本語が全く分からないのに、わざわざ私の所に来て、「必ず追い付くからこのまま置いてくれ」と英語で頼み込むのです。どうもこれは面子の問題なのではないか。そんな気がしました。

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