31. 規律について 規律と標語 標語が多いのには驚きます。これはバス停のもの。
 1)交通ルール
 大きい交差点には自動車用と歩行者用の2種類の信号があります。自動車用は交差点中央の台上にあって、「あと何秒」と知らせる表示板も付属しています。更にご丁寧に警官も台上に立っている。だからかどうか、この信号は辛うじて守られています。しかし歩行者用は全く守られていません。自転車、歩行者は赤信号でも平気で渡る。横断歩道には専任の交通指導係みたいな人間がいるのに、違反に対して何も言わない。だから交差点に半日も立っていれば、最低でも3件くらいの事故を目撃できます。一番多いのが自動車と自転車の接触事故です。たいてい自転車が悪い。赤信号でも渡ろうとしますから。

 一度中級の授業で、なぜ信号は守られないのかと聞いてみました。みんな、分かりませんと言う。彼ら自身、私に言われるまで信号など意識していなかったようでした。ひどいのになると「信号なんてあった? どこに?」なんて他の生徒に聞いている。だから、「赤信号は止まれの意味」と知らないのかもしれません。

 交通一般についても理解に苦しむことが多い。車に乗っていて、狭い道路で向こうから車が来ます。見えないなら兎も角見えている。私ならこれは待った方がいいなとすぐ判断がつく場合でも、ここの人達は構わず突っ込む。当然すれ違えなくて立ち往生します。そこへまた通行人、自転車、バイクが我先に突っ込んで来る。団子状になってにっちもさっちも行かない。人や自転車は何とかすり抜けられても、車はそうはいかない。結局どちらかがバックすることになる。それまでの時間と労力を考えたら・・・と、これは私達の感覚。隙間があろうが無かろうが兎に角突っ込むというのがここの人達の感覚なんです。

 そうかと思うと、バスやタクシーの目の前にいきなり人や自転車が出て来る。ハッと息を呑むことが何回もありました。私が思うには、中国四千年の歴史は戦乱の歴史。彼らの体内には「前進あるのみ。停止は死を意味する」という遺伝子が組み込まれているに違いない。それともう一つ。他人と接触することに無頓着ですね。欧米人は他人に接触すると「Excuse me」と言う。1m程度の間隔を保つようにする。日本人も接触すれば「済みません」と言うし、30cmくらいは空けるようにする。こういう空間を維持しようとする本能を、医学用語で「見当識」と言います。どうもこちらの人は見当識失調ではないかと思われます。

 2)順番
 窓口で並ばないことは前に書きました。平然と割り込む。それが窓口だけではない。タクシーや人力車に乗るときも同じ。私、タクシーと窓越しに行き先を話しているとき、また人力車と値段の交渉をしているとき、後から来た人に横取りされたことがあります。こちらに何も言わずに勝手に乗り込んでしまうのです。

 これは順番ではありませんが、バスは前から乗り後ろから降りるようになっていた。それをみんな守らない。前から降りる。後ろから乗る。運転手も諦めて何も言わない。まぁひどいものでした。

 3)公私混同
 道路工事現場で身なりの良いおばあさんが、作業員が練り上げている生コンを、横から板切れを使ってビニール袋に堂々と取り込んでいるのを目撃したことがあります。たぶん自宅のどこかを修理するのに使うつもりなのでしょう。猫ババされても作業員は何も言わない。公共の物は人民の物という感覚なんだろうか。カメラを持っていなかったのが悔やまれるシーンでした。 

 私は忙しい時は土日も出勤しました。するとオフィスには必ずSさんの息子(中学生)が来ていて、事務室のコンピューターを使っていました。これは喧しく言うと公器の私物化ですね。Sさんも息子も当然のような顔をしている。こちらでは一般的な習慣なのかもしれません。

 行楽地で家族連れが乗った公用車をよく見掛けました。横腹に例えば公安と書いてあるからすぐ分かるのです。完全に公私混同だと思うのですが、皆さん平気の平左。これはまだ自動車が少ないせいで、みんながマイカーを持つようになるまでの過渡的現象でしょうか。

 4)知的所有権保護
 あるとき日本の新聞で「世界中で流通している偽物の65%は中国製」という記事を見たことがあります。そのときは少し誇張ではないかと感じました。しかし、現実に中国で暮らしているうちに、あの記事は本当らしいという気がしてきた。決定打は下の出来事。

 ある時、O先生が「蘇州へ出張します」と言う。今回は何ですか?と聞いたら、知的所有権保護に関する全国会議ですとのこと。中国もこれからは知的所有権を厳格に保護します、と胸を張る。私が科技交流中心が作成した手元のテキスト(新にほんごの基礎の海賊版)を取り上げて、「これは著作権法違反ですよ」と指摘したら、「エッ!そうなんですか?」と絶句した。取り締まる側の官においてかくのごとし。いわんや民においておや。
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