37. 公務員と副業 出稼ぎの農民 農村から出稼ぎに来た人達。大きな荷物を持って歩きます。

 大晦日に隣接Z市のCさんから電話があった。鎌倉で通訳をした人です。「その後如何ですか? 気になっていたんですが・・。ご無沙汰しちゃって」。もう少しで帰国ですよ。「いやぁー申し訳ない」。給与が貴方の話とは違いましたよ。「えーっ! すぐ私に言ってくださればよかったのに」。貴方はSさんの親戚だから。それに、もうその件は終わりました。「親戚でも仕事は仕事ですよ。ところで一度お会いしたいのですが」。明日は授業がないからこちらから伺いましょう。ということで、元日に隣のZ市へ出かけました。 

 杭州行の急行に乗る。遠方からの列車とみえ、混んでいて座れません。棚には天井まで隙間なく荷物がギッチリ詰まっています。中国人はびっくりするくらい大きい荷物を持って歩きます。余談ですが、人の移動も激しい。J市でも丸めた布団を抱えてバスに乗っている人や、上の写真のように担いで歩いている出稼ぎ農民を随分見掛けました。一度なんか、ハイヒールを履いた女性がスコップを持って道路工事をしている姿を見たことがあります。おそらく到着早々に仕事に有りついたのでしょう。また、市中心部のホテルの周辺では夜、子連れの乞食によく裾を掴まれて無心されました。子供に食べるものがないと言わせたり、親が子供に食べさせられないとジェスチャーで言う。農村から出て来て仕事がないと、忽ち物乞いに変わるのです。 

 たまたま乗務員の席の横に立っていたので、彼らの仕事ぶりを観察。この車両は無座(自由席)だけれど、どこかに指定席の車両があるらしい。たぶんJ市から乗った客でしょう。入れ替わり立ち替わり現れ、「指定席を」と注文する。すると客席の一覧表を取り出して空席を探す。あれば(大体あった)その番号を指定席券に書き込み、金を取って領収書を書く。その領収書はカーボン紙を挟む昔風の大きな紙です。一つには不正防止、一つには乗客が公用の場合の支出証明書にするのでしょう。領収書を受け取って席に向かった客が帰って来たりします。すると二人いる乗務員のうち、若い方が客と一緒に出かける。客が行ってみたら席が占領されていたのではないか。日本でも間々あることです。そんな情景を眺めているうちに、さして退屈することもなく1時間がたちZ市に到着。

 
駅から電話してCさんのお迎えを受け、彼のお宅へ。途中でタクシーを捨て、小さい公園
へ案内されました。一隅に学校の校舎みたいな木造の二階建てが。喜劇団の建物だとのこと。その二階の隅の部屋に故Tさんが泊まっていたのだそうです。公安が木製のドアを鉄製に変えるという条件で居住を許可したのも何となく分かるような佇まい、環境でした。きっと侘しかったでしょうね。でもご本人は、喜劇団の人が優しくしてくれて楽しいと言っておられたとか。そう。故Tさんは最初、このZ市へ日本語教師として赴任されたのです。

 Cさんのお宅は賑やかな街中で、マンションの2区画をぶち抜いた広い部屋でした。他所にもう1軒持っているとのこと。資産家です。用件は、Z市の役人が来て、先生に紹介してくれと言う。断っても断っても聞かないので、一度だけ会って下さいとのこと。ただし、私は紹介するだけで、後々まで関係持つことはお断りです、と意味深長な話です。この後に聞いた話などと総合すると、どうもCさんはここの役人にかなりいじめられたのではないか。

 役人の迎えが来るまでの間、故Tさん招請の経緯を聞きました。Cさんはかつて、京都西陣の織物会社で4年間働いた。帰国して、人件費が安いこちらで織物下請けの会社を始めた。傍ら実業学校も創設した。その科目の一つに日本語をと考え、知り合いの横須賀の日本人に教師の斡旋を依頼した。その日本人はローカル紙に募集広告を出した。30人もの応募があり、面接の結果故Tさんが選ばれたのだそうな。しかし、学校はうまくいかなかったらしい。特に故Tさんの場合は、ビザの更新がスムースにいかなかった。この国では民のやっていることには官がうるさく干渉する。それは暗黙の賄賂の要求でもあるのでしょう。それで故Tさんは嫌になり帰国する気になったところ、J市のSさんから声がかかった。J市に移ったら今度は官の直営だから、ビザはスイスイと出る。故TさんはJ市で1年、Z市と通算で2年教えたのだそうです。SさんとCさんは姻戚関係だとか。確かSさんの姉さんがCさんの嫂と聞きました。

 お役人が迎えに来ました。やはり外事処の処長。お寺を1軒案内され、それから役所へ。J市とは比べものにならない立派なビルです。食事でもというのを断って事務室へ。元日ですから事務室には火の気がなくて寒かった。用件は、当市には日本向けの縫製工場が多く日本語の需要がある。教室は完備しているがいい先生がいない。たまたまSさんから先生の噂を聞いた。J市のあと、是非Z市で教えてほしいということ。何も私でなくても教師希望者は星の数ほどいます。そう言ったら、やはり知らない人では不安だと言う。ならばと、(財)日本シルバーボランティアの電話とアドレスを教えてあげました。私は日本に家内を置いて来た。帰国したら当分奥さん孝行をしなくてはならないから、すぐここへ来ることは不可能。帰国して家内の意向も聞いた上でまた連絡します、ということにしました。引き上げる前に教室を見せて貰った。エレベーターで上がった20階に普通の教室の他、階段教室もLL教室もある。ここに比べたら、J市の教室は豚小屋です。いや、その立派さには驚きました。

 
その後の話。帰国前にR氏に聞きました。Z市から人を介して「日本への就学または就労の
斡旋につき手を貸してほしい」と話がありましたが断りました、と。おそらく人というのはSさんでしょう。すると、やはりZ市の目論見もJ市と同じです。日本送り込みの斡旋で手数料を稼ぐ魂胆です。だから帰国してからFAXで、うんと厳しい条件を言ってやりました。生徒は学歴で選抜する。1クラス上限は20名。滞在期間は3か月。渡航費支給。日本へ送り込みが目的なら協力しない。それに対する返事は未だにありません。おそらく、R氏に断られた段階で計画を断念したに違いない。教師よりも日本への強力なコネの方が欲しいんです。

  役人が蛇頭まがいのことを考えるのは、究極お金が欲しいから。役人の給料は確かに安い。8月9日付朝日新聞に載っていましたが、朱首相が公務員の給料を40%アップすると決めたそうです。はびこる汚職を減らすことと、有効需要喚起が狙いだという解説です。しかし、ベースアップをしたところで汚職はなくならないでしょう。何故かと言うと、今まで共産党は各機関が商売をすることを公認してきました。いい例が人民解放軍です。ここは何から何まで自前で持っています。観光客向けにピストル、ライフル、バズーカなどの実弾射撃まで商売にしています。江主席が最近、解放軍の商売は目に余ると怒ったそうな。商売と汚職は紙一重です。中国人が一度うまい汁を吸ったら、もう商売は禁止と言ったって「はい」と素直に止めるわけがない。剛腕朱さんが行政機構に大鉈を振るえるか。それとも朱さんがギブアップし、内部崩壊を起こすまで腐敗が一層進むのか。これから数年、朱首相対役人の攻防から目が離せません。
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