46. 落ち穂拾い-3  3. 暴動  これは私が日本へ帰国し、約1年後上海の大学で再び日本語を教えるようになってからの出来事。ですから実際に見たわけではなく、伝聞だということを予めお断りしておきます。  
 前にITT-CANNONという会社の工場で苦労していた人のお話をしました。仮にUさんとします。駐在員ですから前章に書いた街中心部のホテルに住んでいました。このホテルが突然民衆に襲われたというのです。暴動化した民衆が一階ロビーに乱入しガラスを割るなど乱暴狼藉の限りを尽くす。暴徒はちょっとやそっとの数ではない。数千人にも達し、ホテルを包囲。更には鉄道線路に座り込み、列車を止めてしまった。鉄道は支線ではありません。上海へ通じるレッキとした幹線。これが止まったら影響は甚大。もし外国マスコミが嗅ぎつけたら「スワ中国で内乱発生?」と報道されること必定。そこで人民解放軍が出動した・・と言う。

 でも私、それは武装警察隊の間違いではないかと思う。人民解放軍というのはこの前の全人代で「国軍か党の軍隊か」と問題になった。結局従来どおり、党の軍隊という結論に落ち着いたようですが、まぁ政治上の位置付けは兎も角、これを外国へ持って行けば「国軍」です。性格としては国土防衛用、対外敵用の軍隊。一方武装警察隊というのは人民解放軍を縮小したとき、カットした兵士の再就職の場として創設したもの。国内治安用と説明されています。J市政府の正門で立哨しているのもこれ。前に私、警官と書きましたが、厳密に言えば兵士です。で、線路に座り込んでいる暴徒は武装兵士がシェパードを連れてきて排除したそう。

 何でそんな騒ぎになったのか。私がJ市に赴任したとき、一際目立つそのホテルは香港系と聞きました。それなら外資ですね。ところがそうではなかったらしい。誰かがJ市とその周辺の市民から金を集めて作ったんですね。つまり私募債。その誰かは香港人かも知れません。で、「全額償還」か「一部償還」かは知りませんが、その最初の期限が到来したのです。債券保有者が償還を求めたところ、今それはできないからと書き換えを要求された。早い話が「不渡り」です。それで債券保有者、つまり債権者が激怒し暴徒化した。周辺部にも債券保有者がいますからその連中、或いは野次馬が話を聞いて続々とJ市に押し掛け、規模が膨れ上がった。

 Uさんは初日、出勤できなかった。更に外部へ電話が通じなくなった。意図的に切られたのです。そして交通も遮断された。事件発生何日後のことか忘れましたが、Uさんは日本から出張で来る上役と上海で会う予定があった。車で出ようとしたら、市外へ出る道は全部武装兵士が封鎖。何を言っても「ダメだ」で通してもらえなかった。勿論火車站も封鎖され、列車は素通り。結局封鎖は約1週間続いた。市政府が仲介して翌年かに必ず利払いをするとかの条件で、やっと暴徒を解散させることができたのだそうです。

 私はこの話を聞いたとき、政府または武警隊幹部は相当神経を使っていると感じました。まず、兵士達は武装はしていたが発砲はしなかったとか。暴徒が兵士を襲えば或いは発砲したかも知れません。しかしまぁ兎に角、発砲して死人が出れば火に油を注ぐようなもの。おそらく兵士達は、絶対に発砲するなと厳命されていたのでしょう。もう一つは交通・通信を遮断したこと。この種の不満は各地に鬱積している。一度火が他所へ燃え移ると野火のように拡がる懼れがある。それだけは何としても避けたかったに違いない。1週間程度で治って政府はホッとしたと思います。

 火元のホテルのこと。R氏がK先生の部屋を自分の事務所のように使い出したものですから、私もちょいちょいこのホテルに寄るようになりました。最上階(30階)に回転ラウンジがあります。そこへエレベーターで上がるときに気が付いた。エレベーターは19階から上に止まることがない。降りる人がいない。乗ってくる人もいない。Uさんに聞いたら、内装もしてないガラン洞だとのこと。使っていないんです。すると、最初から過大な投資をしたことになる。5年くらいで全額償還できる筈がない。一部だって難しい。と言うことは、この私募債は詐欺に等しい。何でそんなことをするのか。市内の建設銀行、工商銀行の支店と同様、見栄を張ったとしか思えません。これは中国(人)の通弊。何でも大きく見せよう、目立たせようとする。まず格好をつける。中身は後回し。

 上海で会った湯君の話。日本の会社が中国へ進出すると大抵、不良債権の山を築くと言う。日本人は売り掛けは一定期間後に黙っていても回収できるものだと考えている。だから掛け売りをする。一方、中国の会社では仕入れ商品の支払いをしない経理担当者が優秀と評価されるのです。売るときは現金と引き替え。こりゃどうしたって日本の会社は不良債権の塊になる。湯君の会社も初期の焦げ付きを懸命に回収している。地方のデパートなどへ行くと同じような取り立て屋が一杯来ているとか。現金で取れなければ文房具でも何でも取れるものなら何でも取って来るんだそうです。

 上段のことで何を言いたいのか。中国には信用システムがないということ。日本の手形交換所のような機関が無い。したがって不渡り情報、ひいては銀行取引停止処分という万人に公開されている制度がない。これでは相手方の信用なんかまるで分かりません。だから一般民衆なんか見てくれと口先で誤魔化されてしまう。レッキとした会社だって騙されるんですからそれも仕方がないのかな。

 それにしてもそのホテルは総額幾らか知らないけれど、可成りの資金を集めたのでしょうね。私の推測では、その可成りの部分は箪笥預金だと思う。つまりアンダーグランドマネー。日本の銀行も今や信用丸潰れですけれど、中国の銀行も信用がない。だからみんな箪笥にしまい込んでいる。或いは銀行に預けてあっても、少しでも有利な話があったら引き出してそちらへ投資する。こういう表へ出て来ない資金が多ければ多いほど、その国は後進国なんです。おっと、後進国なんて言うと中国の人は怒る。先進、発展途上、後進。名前はどうでもいい。問題はアンダーグランドマネーが多い国の経済はスムーズに発展しないということです。これを論じ始めたらそれだけで1章できてしまう。それはまた改めて・・・ということで、今日はこれでおしまい。
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