6.ポカラ−3
マチャプチャリ
展望台サランコットから見るマチャプチャレ(魚の尾)、ダウラギリ、アンナプルナU。

 <4月30日>
 朝5時少し前、車がホテルの前に止まる気配。起きて支度する。ホカロンは全く機能していない。はがして捨てる。腹はしぶる感じだが何とか保ちそう。ドアをノック。運転手だ。ここはホテルなどと称しているが、廊下にも階段にも明かりはない。鼻をつままれても分からない真っ暗闇の中を運転手、「気をつけて」と言いながらスタスタ歩く。さすがに山岳民族。夜目が利く。車に乗り込み山に向かう。

 ボロ車だから急坂では喘ぎ喘ぎという感じ。しかし、エンストしないだけ昨日使ったタクシーよりはマシだ。頂上近くで「車はここまで」と降ろされる。子供が寄ってきて「案内する」と言う。高い所なのに人家が結構あるのです。ゆっくり歩くのだがきつい。普段水泳で鍛えている。でも水泳と山登りとでは使う筋肉が違うらしい。子供が「ジャパンか?」と聞く。「そうか。ジャパンは好きだ。ここの小学校はジャパンが建ててくれた」と言う。

 やっとの思いで展望台に到着。まだ暗い。そして寒い。後ろから新婚らしいインド人夫婦。たった今式が終わったばかりというような盛装だ。別のインド人の子供連れもいる。やがて日本人の年寄りの男が二人。写真が趣味らしく三脚を持っている。子供が「あれがジャパンが建ててくれた学校だ」と指差す。「なるほど」と見るうちに、眼下の農家から男が出て来て畑に向かう。こんなに早くから働くのかと見ていたら、奥まった所で中腰になり用を足す。屋内にトイレは無いのか。

 やがて日の出。大したことなし。ヒマラヤも霞んでハッキリ見えない。子供が「あれがマチャプチャレ。ダウラギリ。アンナプルナ」と指差す。腐っても鯛。霞んでいてもヒマラヤ。迫力はあります。頭上にのしかかる感じ。こんな山に登ろうなんてぇ了見起こす奴は、どう考えてもマトモじゃないな。しかし、映像としては今ひとつ。ひとしきり写真を撮ると、子供が「学校のお金をヘルプ」と手を出す。10Rs出したら「50Rsくれ」と言う。少し前から腹がシクシクし始めた。オレは機嫌が悪いんだ。断固拒否する。10Rsで諦めて去った。インド人が寄ってきてこちらのインスタントカメラを指し、これは何かと問う。パノラマカメラだと答えると、感心してしきりに首を振る。さすがに「くれ」とは言わなかった。

展望台からポカラ市街
 私の運転手が迎えに来た。トイレを借りてくれと頼む。「どの家にもトイレはない。その辺で済ませろ」と言う。やむなく山腹に分け入り、木の根に掴まって放出。殆ど水分。この根っこが抜けたら「日本人観光客転落死」と、新聞の見出しが脳裏をかすめる。
(写真)サランコットからの俯瞰。左がポカラ市街。右が湖。

 帰途、運転手の労をねぎらうべく、湖畔のレストランに寄る。近くにネパール王の別荘があり、綺麗な所だ。運転手はグルカ族だそう。道理で・・・。「そうか。グルカか。昔インパールで、君の祖父さんたちと日本軍が戦ったんだ。グルカ兵は強いんだよな」と誉めてやったら、「僕も兵役が終わったばかり。親父はインド軍にいた」と少々見当外れの答え。精強を誇る九州兵団に「グルカは強い」と一目おかせた肝心のインパール戦は知らないらしい。そうだよな。もう50年も昔の話だもんな。年寄りはこれだからいけない。

 余談です。アラカン山脈を踏み越えて日本軍がインパール市街を望む線に辿り着いたとき、市街前面の第一線に展開していたのが英印軍グルカ大隊。その後ろに半ば地中に埋めた軽戦車の列。グルカ兵の射撃は非常に正確。その上、日本兵が壕に突入しても逃げず、堂々と白兵戦を挑む。だから、この第一線がなかなか抜けなかった。辛うじてここを突破しても第二線の軽戦車の機関銃に薙ぎ倒される。結局日本軍はインパール市街に一歩も入れず、糧秣弾薬尽きて、よく知られている惨憺たる敗走になりました。

 「観光客で嫌いなのは何人?」と聞くと、「イエズリ」と言う。「イエズリ?」。暫く考えてイスラエルと気が付く。「Why?」。「バス停1区間につき1Rsで走れ・・なんて言うんだ。もの凄くケチなうえにtrouble makerだ」とのこと。写真を撮ろうかと聞いたら、「家が近いから家族と一緒に撮ってくれ」と言う。同行する。畑の中。ブロック壁・重石が載っかったトタン屋根の2室の長屋。その1室。3畳くらいの部屋に、ベッドと土の竈。食器類が少々。他に見るべきほどの物なし。若い嫁さんと生後18ヶ月の男の子。流石に室内を撮すのは気が差して、戸外で撮る。部屋代幾らかと訊ねたら「1ヶ月1000Rs。べらぼうだ」と言う。この運転手、英語は下手だけれど人間が木訥なので、17ドルのところを18ドル上げる。名前は?  「インドラ・グルン」。インドのグルン族かよ。随分大ざっぱな付け方だね。空港で別れるとき、「写真OKね」と念を押された。朝食二人で120Rs。タクシー代がホテル→空港100Rs。
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